あの子の日記 「インスタントカップル」

日本のどこかの、誰かの1日を切り取った短篇日記集

夏まっただなかの図書館は天国のように冷房が効いている。鉛筆をにぎると全身にぶつぶつが出そうになるおれに借りたい本があるわけはなく、待ち合わせの時間までちょっと涼みに来ただけだ。

ページをめくる音、椅子を引く音、階段をのぼる音。騒がしい学校とは正反対のしずかな空間が緊張感を倍増させる。しろい掛け時計の針は17時40分をすこし過ぎたあたりを指している。

心臓の音が大人たちに聞こえてしまわないように、ひとの少ない入口付近をうろつく明るい夜。自動ドアからぷうんと入ってくる生ぬるい風の向こうに、瑠璃色の浴衣を着た女子の後ろ姿が見えた。

「うしろ見て」ってラインをしたら、やっぱり相沢が振り向いた。下駄を履いた彼女がちょぼちょぼと近づいてくる。足音はカーペットに吸収され、館内は相変わらずしんとしている。

歩くペースを合わせながら、ぎこちなく屋台へ向かう。あまりにも姿が鮮明に見えてしまうから、待ち合わせはもうすこし遅いほうがよかった気がした。

「サッカー部のやつらも別で来るってさ。そっちは?」
「みなちゃんたちも来るって。みなちゃんって分かる?青木さんね。誘ってくれたけど断ったの」
「女子ってそういう仲良しグループとか、その、断っちゃって大丈夫?」
「先に約束してたの中田くんだし。順番だもん」

かごのバッグを両手で持った彼女の隣でほどよい距離を保ったまま、ただ歩く。人形焼きもフランクフルトもヨーヨーも目に留めず、道路の端から端までひたすら歩いた。でも今日のおれはひとつだけ決めてる。金魚すくいをしたら絶対に手を握るって。

だんだんと日が傾きはじめている。夕日が照らす彼女の横顔は鼻筋が通って、長いまつ毛がまっすぐで、とても、とてもきれいだった。

あたまのネジが何個か抜けちゃったので、ホームセンターで調達したいです。