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あの子の日記 「おまじない」

日本のどこかの、誰かの1日を切り取った短篇日記集

雨が降る午後、車のヘッドライトが濡れた地面を照らし始める。信号無視した黒い車は急いで右へ曲がって行った。

「あんなに急いでどこ行くんだろうね」
「たぶん、一秒でも早く会いたい人がいるんだよ、あの人には」

横断歩道の信号は青に変わり、二人は足元の大きな水たまりを避けて歩きだす。傘を差していないほうの手は、近づくけれどくっつかない。

「ここの横断歩道ってね、白い線の上だけ歩いて渡りきったら、好きな人と両想いになれるらしいよ」
「へえ。やってみる?」

車のヘッドライトが二人を照らす。白線の上に薄くたまった雨水は、歩くリズムに合わせて飛び跳ね、また次の白線へと運ばれていく。

最後の白線まで、あと三歩、二歩、一歩。

渡りきった先はぼんやりと明るく、交わった指はまだ冷たい。

あたまのネジが何個か抜けちゃったので、ホームセンターで調達したいです。