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あの子の日記 「からっぽ」

床にお砂糖をまいていた。わたしたちの生活には甘さが足りなかったから。玄関のとびらを開けてすぐのところ、うす茶色の木を敷きつめた床がまっ白になるくらい、たくさんまいた。

夕焼け、おぼえていますか。あわい青色の空に太陽の原液をぽたりと、一滴たらしたような、うつくしい夕焼け。手を握りあって歩いたでしょう。ろうそくの火がもえるように瞳の奥がすこしあつくなったでしょう。そうして、ほの暗い路地の真んなかで、やわらかいキスをしたでしょう。

ぶかぶかのスリッパを履いて、おっとの足のかたちを思いだす夜。雪みたいに白いお砂糖は、雪みたいな感触で足の裏からわたしを冷やす。冬だもの。すべて冬のせいでしょう?

あたまのネジが何個か抜けちゃったので、ホームセンターで調達したいです。