いざ東北、ゆざわジオパークで大地の息吹を感じる秘湯めぐり|TRAVEL LIGHT #12
秘湯に行きたい
温泉旅行。いい湯に浸かってのんびりしたいなあ、さらにおいしいものでも食べたいなあ、という気持ちには、多くの人が共感してくれるだろう。
でも、今の私は“秘湯“に行きたかった。秘湯とは「ひっそり人知れず、秘境の地に湧く温泉」。すぐ胃痛になる悲しいメンタルの私にとって、それはほんのささやかな逃避行。
うっすらとした蒸発願望とともに向かったのは、秋田県湯沢市。以前、調べて東京から6時間もかかることに衝撃を受けた、その秘湯へ行くのだ。
旅の始まりはご当地グルメ
まずやってきたのは、“佐藤養助 総本店“。稲庭町にある稲庭うどんのお店。万延元年(1860年)創業以来、一子相伝で技を継承しているそう。入口から、白い暖簾が美しい。
頼んだのは、“二味天せいろ“。醤油と胡麻味噌つゆ両方が味わえる。ツルツル。これは胃にもやさしい。天ぷらもアスパラが甘くておいしい。
小安峡温泉で大地を感じる
小安峡温泉にたどり着く。長い階段を降りて峡谷へ。わあ綺麗な川、と思ったのは一瞬で、ものすごい蒸気があちこちから上がっている。ここは“小安峡大噴湯“と呼ばれる場所。
湧き出す温泉の迫力、轟音はぜひ体感してみてほしい。
ここ湯沢市一帯は地球科学的に貴重な価値を持つ“ゆざわジオパーク“に認定されている。目に見える火山はないけど、太古には幾度となく火山噴火し、今も地中深くでその活動は続いている。湯が噴き上がるのは、まさに大地の息吹。
秘湯を守る会の宿“阿部旅館“
奥小安峡にある大湯温泉の宿“阿部旅館“が今日の目的地。
さて、さっそく温泉へ。お部屋からも見えた露天風呂へ向かう。
実は気になっていたのは、この源泉蒸風呂。サウナ好きとしては見逃せない。
中に入るとかなり熱い。下を源泉が流れるだけでこの熱気と湿度。ひーひー言いながらかけ水をして、外の露天のヘリに座って外気浴。
蒸され、風に吹かれ、またぬくもり、と繰り返しているうちに、心も解放されてゆく。渓谷に風が吹き抜ける。その心地よいこと。ここは「風の谷の湯」だな(勝手に命名)。
気づけば夕飯の時間。並ぶのは、山菜たっぷりの山の食事。地元の皆瀬牛のローストビーフがあるのがうれしい。おいしいお米と一緒にいただきます。
夜の露天にはいい風が吹く。しかし、それよりも満点の星空。こんなにたくさんの星を見たのはニュージーランド以来。
部屋からカメラを撮ってきて、外で撮影。三脚がないので、地面にタオルをしいて、カメラを上向きに置く荒技スタイル。
久々にぐっすり寝て、朝一番の風呂は、宿泊者専用の内湯へ。
開放的な外風呂(人によって気になるかも)とまた違う、落ち着く空間。今回の宿泊では、誰とも会わずにずっと湯を独占。ありたがい。
地獄から湧き出る湯
さあ、次の温泉地へ。車で20分ほどでもう一つの秘湯、泥湯温泉に着く。ここには地獄があるという……。あ、見えてきた。車の窓を開けると猛烈な硫黄臭が流れ込んでくる。
“川原毛地獄“は、恐山や立山に並ぶ日本三大霊地で、古くから多くの修験者が訪れた場所だという。
ちょっと頭が痛くなり(気の病)、早めに引き返して温泉へ。日帰り入浴は、泥湯温泉の奥山旅館へ。こちらも秘湯を守る会のお宿。
渋さもありながら綺麗なお風呂場。よし、一番乗り。女性用は内湯と、外に専用の露天もあり。そこから混浴の大きな露天へも行ける。
ああ、天国。たまにシャワーで水を浴びながら、じっくり浸かる。この地で平安時代から人々が湯治をしていたとか。ずっと続いてほしいなあ。
宿をちらっと見ると、スタッフの方がとても丁寧にお掃除をされていた。次はここに泊まってみよう。
小腹が空いたので、ご当地グルメを食べに、“シェーシェー“へ。ほっこりした雰囲気の町の食堂。横手焼きそば(500円)を注文。
太めの麺に挽肉、半熟の目玉焼き、福神漬け。なるほど、確かにこれはいい。さらっとしてて、小腹が空いた時にぴったり。
ふらりとやってきたおじいさんが、ソフトクリームだけ食べて帰っていく。ここが地元だったらと妄想。学校帰りに友達の女の子とサンデー食べながらお喋りしたいな。
栗駒山で、歩いて浸かる
今回の温泉巡りのラストは栗駒山へ。近いけれど、ここは秋田ではなく岩手県。車で一気に標高1126m(いいふろ!)の高原へ。
鳥居の方へ上ってみると、湧いてる湧いてる。全国屈指の湧出量だそう。
あとのお楽しみということで、栗駒山を散策してみます。
気になる小屋を発見。「おいらん風呂」。ここも平安時代から続く温泉、花魁が蒸し風呂を好んだといういわれがあるそう。
紅葉で有名な栗駒山だけど、5月中旬の今はまだ雪解けしたばかり。
散策路はところどころ雪道でなかなかの冒険。
さて、温泉へ戻ってきた。“須川高原温泉“の味のあるグリーンがいい。
しっかり熱くて、ぐっと体に染み渡る強さも感じる、いい湯でした。
旅の終わりは中華そば
帰り道、またご当地グルメを探して、十文字ラーメンに行き当たる。あっさりスープと細縮れ麺が特徴。元祖の“マルタマ“へ。
普通サイズは500円。やってきたのは、どこまでも澄み切ったこちらのお方。
やさしいスープにホッとする。お醤油がやけにおいしいなと、帰りに外に積まれていた瓶を見ると、地元の醤油屋さんのものみたい。さすが。
あとは長い新幹線に乗って帰るだけ。ひたすら湯に浸かるうち、だんだんと頭の中に渦巻くものが抜けていって、気づいたら、ただ旅を楽しんでいた。
日常からちょっと距離を置きたくなったとき、逃げ込みたい場所があるってしあわせだなと思ったり。
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