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近刊『情報可視化入門 ― 人の視覚とデータの表現手法 ― 』まえがき公開

2021年5月下旬発行予定の新刊書籍、『情報可視化入門 ―人の視覚とデータの表現手法―』のご紹介です。
同書の「まえがき」を、発行に先駆けて公開します。

情報可視化1

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まえがき

データや情報を視覚的表現に変換することを「可視化」という。とくに、物理的な形や空間的な位置があらかじめ備わっていないようなデータや情報を対象にした可視化を「情報可視化」とよぶ。ここで「視覚的表現」とは、データや情報を目に見えるように表現したもので、競合他社との売上高を比較するための棒グラフや、企業間の提携関係を表したネットワーク図などが例として挙げられる。

情報技術の進歩とともにデータは爆発的に増えている。あふれるデータを有効活用したいという要求がある一方で、我々人間が処理できるデータの量には限りがある。幸いにして我々は優れた視覚を備えている。情報可視化は、人間の視覚的認知能力とコンピュータの情報処理能力を融合して効果的に活用するものであり、氾濫するデータの活用に対する一つの解決策を提供するものである。

本書の目的は、情報可視化に関する体系的な知識を提供することである。そのために、本書は、おおまかに以下のような内容から構成される。

・情報可視化に関連する基礎知識(第1章~第4章)
・情報可視化の基本手法(第5章~第7章)
・データ構造ごとの可視化手法(第8章~第15章)

ある視覚的表現を見てそれが表す情報を理解できるのは、その視覚的表現が言語的な特性を備えているからである。そのような視覚的表現にはそれを構成する単語や文法に相当するものがあり、それらは人間の視覚特性に従って定められている。また、対象データの種類によっても適した単語や文法が異なる。そのため、情報可視化を議論するときには、人間の視覚特性、対象データ、視覚的な表現手法を関連付けて考えることが重要である。

データを視覚的に表現する際には、さらに、視覚的表現を用いる目的や論点を意識すべきであり、論点に適した視覚的表現を選ぶことも重要である。ただし、本書では、論点と個々の視覚的表現との関係については詳しく説明できなかった。また、可視化は多くの場合、静的な図を制作して終わりではなく、コンピュータなどの画面を通して対話的に視覚的表現を操作することが広く行われている。そのような対話的操作にも文法があるが、これについても本書ではあまり触れていない。これらについては、別の書籍を参考にしてほしい。

本書は、筑波大学において2009年から開講している授業科目「情報可視化」の講義内容をまとめたものである。開講から10年以上を経て、授業内容もこのような形へと段々と変化してきた。なお、授業を設計するにあたり、さまざまな文献や論文を参考にしたが、中でも以下の文献の影響を大きく受けている。

[3]出原栄一ほか,"図の体系─図的思考とその表現",日科技連,1986.
[4]杉山公造,"グラフ自動描画法とその応用,計測自動制御学会",1993.
[5]Colin Ware, "Information Visualization: Perception for Design, 2nd ed.", Morgan Kaufmann, 2004.
[6]Stephen Few, "Show Me the Numbers: Designing Tables and Graphs to Enlighten," Analytics Press, 2004.
[7]Stuart K. Card et al., "Readings in Information Visualization: Using Vision to Think", Morgan Kaufmann, 1999.

視覚的表現の文法に相当するものを、本書では表現規則とよんでいる。[3]の『図の体系』で紹介されている表現系の考え方を表現規則の大分類として利用している。また、[4]の『グラフ自動描画法とその応用』でまとめられている描画規則や美的基準などは、表現規則の構成要素として取り入れている。

本書のおもな対象読者は大学の学部生である。データを表すために数式のような記法を利用しているが、式ではなく記号だと思って読み進めてもらえばよい。そのため、いわゆる文系や芸術系の学生も読み解くことはそう難しくはないだろう。近年データサイエンスの必要性が認識され、多くの大学のカリキュラムに導入されつつある。本書はデータサイエンスに欠かせないデータ可視化の参考書としても有用であろう。さらに、データ可視化への理解を深めたい大学院生や技術者にも読んでほしい。

授業への利用を想定して、全体を15章にまとめたが、残念ながら各章の長さを揃えることはできなかった。授業に利用される際には多少取捨選択して、視覚的表現の制作課題などを折り混ぜることをお勧めする。

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『情報可視化入門 ― 人の視覚とデータの表現手法 ―』

著:三末和男

データや情報を可視化して活用することが当たり前の時代。
ツールやプログラムに任せて、データを可視化するだけで満足していませんか。
情報をうまく伝えられない、正確に読み取れないという事態に陥っていませんか。

本書は、
 ・データや情報をわかりやすく、効果的に伝えたい人[プレゼンテーション]
 ・コンピュータから正しく、効率的に情報を得たい人[情報探索/モニタリング]
 ・データから価値のある情報や傾向を得たい人[データ分析]

に必須となる、「情報可視化」の基礎と表現手法を体系的にまとめた解説書です。

まず、単に可視化することから一歩進んで、データから「価値」を引き出し、受け手に与えられるようになるために、人の視覚特性に基づいた基礎理論を学びます。
そして、量的データ、質的データ、集合、ネットワーク、地理データ、時刻データなどのデータ構造ごとに、適切かつ効果的な可視化表現を学びます。

【目次】
第1章 情報可視化の概観
 1.1 可視化と視覚的表現
 1.2 視覚的に表現することの意義
 1.3 可視化に関連する概念
 1.4 情報可視化の目的
 1.5 視覚的表現を用いる作業
 1.6 可視化処理の参照モデル
 演習課題

第2章 視覚の性質
 2.1 視覚の仕組み
 2.2 前注意的処理
 2.3 ゲシュタルトの法則
 演習課題

第3章 色
 3.1 目の構造と色覚
 3.2 色の見え方の性質
 コラム:色空間
 演習課題

第4章 データ
 4.1 値に着目したデータの分類
 4.2 構造に着目したデータの分類
 4.3 生データ
 4.4 データ変換
 演習課題

第5章 値の表現手法
 5.1 値の表現の基本方針
 5.2 名義データの表現手法
 5.3 順序データの表現手法
 5.4 量的逐次データの表現手法
 5.5 量的分岐データの表現手法
 5.6 視覚変数の表現力
 演習課題

第6章 関係の表現手法
 6.1 関係の表現の基本手法
 6.2 慣習による意味
 6.3 関係の付加情報の表し方
 6.4 関係の表現による値の表現
 6.5 関係の表現によるデータ構造の表現
 演習課題

第7章 視覚的表現
 7.1 視覚的表現が備えるべき性質
 7.2 視覚的表現の構成
 7.3 表現系
 7.4 よい視覚的表現
 コラム:3段階の説明
 演習課題

第8章 多変量量的データの表現手法
 8.1 1変量データの表現手法
 8.2 2変量データの表現手法
 8.3 3変量データの表現手法
 8.4 3変量以上の量的データを表現する際の問題
 8.5 次元削減の利用
 8.6 非直交座標系の利用
 8.7 複数ビュー
 8.8 グリフ
 8.9 量的データをキーとする組の表現手法
 8.10 質的データが混在する場合の対処
 コラム:アトミック可視化とアグリゲート可視化
 演習課題

第9章 多変量質的データの表現手法
 9.1 多変量質的データをそのまま表現する手法
 9.2 1変量質的データをキーとする組の表現手法
 9.3 2変量質的データをキーとする組の表現手法
 9.4 多変量質的データをキーとする組の表現手法
 コラム:値の範囲の巨大なデータの表現
 演習課題

第10章 集合の表現手法
 10.1 質的データと集合
 10.2 領域系による集合の表現手法
 10.3 連結系による集合の表現手法
 10.4 整列系による集合の表現手法
 10.5 要素への一つ以上の色の割り当て
 演習課題

第11章 ネットワークの表現手法
 11.1 グラフ
 11.2 連結系によるグラフの表現手法
 11.3 連結系における視覚的混雑を回避する技術
 11.4 整列系によるグラフの表現手法
 11.5 複合系によるグラフの表現手法
 演習課題

第12章 階層データの表現手法
 12.1 根付き木
 12.2 準座標系による根付き木の表現手法
 12.3 整列系による根付き木の表現手法
 12.4 連結系による根付き木の表現手法
 12.5 領域系による根付き木の表現手法
 12.6 複合系による根付き木の表現手法
 演習課題

第13章 地理データの表現手法
 13.1 地理データとその基本的な表現
 13.2 地点をキーとする質的データの表現手法
 13.3 地点をキーとする量的データの表現手法
 13.4 領域をキーとする質的データの表現手法
 13.5 領域をキーとする量的データの表現手法
 13.6 2地点をキーとするデータの表現手法
 演習課題

第14章 時刻データの表現手法
 14.1 時刻データとその基本的な表現
 14.2 時刻データとしての順序データの表現手法
 14.3 線形性に着目した多変量時刻データの表現手法
 14.4 線形性に着目した時刻をキーとするデータの表現手法
 14.5 線形性に着目し連続性を強調した時刻データの表現手法
 14.6 周期性に着目した時刻データの表現手法
 14.7 線形性と周期性の両方に着目した時刻データの表現手法
 演習課題

第15章 動的データの表現手法
 15.1 動的データとその基本的な表現
 15.2 アニメーションの利用
 15.3 複数ビューの利用
 15.4 2.5次元表現の利用
 15.5 1.5次元表現の利用
 15.6 時間次元の埋め込み
 コラム:比較のための可視化
 演習課題

あとがき
参考文献
索引

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