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サーキットを最速で走破するためのメカニズムを理解する―—近刊『Race Car Design』監訳者まえがき公開

2022年10月下旬発行予定の新刊書籍、『Race Car Design』のご紹介です。
同書の「監訳者まえがき」を、発行に先駆けて公開します。



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監訳者まえがき

本書 “Race Car Design” を日本語訳化したいと考えたのは、私自身が一関工業高等専門学校で岩手連合学生フォーミュラチームのファカルティアドバイザー(指導教員)として活動していた際に、学生が英語で書かれている技術書の読解に苦労することが続き、車両の開発を体系的に学べる日本語の書籍の必要性を痛感したためです。

本書は、車両製作の基本を短時間で俯瞰的に理解し、かつ、担当分野の技術を奥深く理解することを念頭に置いて書かれています。とくに、以下の方々に読んで頂きたいと考えています。

• 学生フォーミュラチームに加入したばかりの学生
• 学生フォーミュラチームを立ち上げようとしている指導教員および学生
• 企業で新たなモビリティを開発したい技術者

なお、本書の特徴として、車両の運動性能に関わる内容が充実しています。

本書の日本語版の執筆を森北出版に提案したのは、新型コロナウイルスの感染拡大が急速に広まった 2020 年でした。学生フォーミュラ日本大会が中止となり、コロナ禍の影響で活動を休止したチームが 20~30 チームほどあったと耳にしています。しかし、私の英語力では力不足だったため、森北出版から深瀧庸平氏をご紹介いただいて日本語化の試みが始まりました。その最中の 2021 年春、私は大阪産業大学工学部交通機械工学科へ異動し、同大学の学生フォーミュラチームの指導に関わるようになりました。ここでも、岩手連合チームと同様に学生フォーミュラ車両開発のノウハウ伝授がコロナ禍で滞り、再始動させるための苦労が続きました。これと同時に、本書があれば学生への導入教育に使えたであろうと実感しました。

自動車関連の技術書は多くありますが、車両設計の基礎を説明した日本語の専門書はそう多くないと認識しています。本書が、学生フォーミュラに挑む若者達や、新たなモビリティを開発したい技術者の皆様にとってのバイブルとなれば、この上ない喜びです。

(以下略)

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原著:Derek Seward
監訳:伊藤 一也(大阪産業大)
訳:深瀧 庸平

ラップタイムを0.01秒でも縮めるために、設計者は何を考えるべきか――。

原理と実践の双方を知り尽くした著者によるレーシングカー設計のバイブル、待望の日本語版が登場。
 
本書では、走行中の荷重移動、タイヤ特性、空力デバイスの作用といった基礎的事項について、豊富な図や例題を示しながら詳しく解説。レーシングカーを構成する多数の要素の設計を短期間で俯瞰的に理解し、各技術への理解を深めることができる。
 
フォーミュラ参加者のみならず、モビリティ開発者が最初に知っておくべき知識を詰め込んだ1冊。
 
[原著]Race Car Design (Red Globe Press, 2014)


【目次】
Chapter 1  レーシングカーの基礎
 1.1  はじめに
 1.2  レースの基本的要素
 1.3  車両の質量中心の位置
 1.4  ホイール静荷重と前後重量バランス
 1.5  直線加速と縦方向の荷重移動
 1.6  制動と縦方向の荷重移動
 1.7  旋回と横方向の総荷重移動
 1.8  G-Gダイアグラム
 1.9  空力的ダウンフォースの効果
 1.10  レーシングカー設計の問題点

Chapter 2  シャーシ構造
 2.1  はじめに
 2.2  ねじり剛性の重要性
 2.3  スペースフレームシャーシの構造
 2.4  応力外皮構造
 2.5  モノコック構造
 2.6  シャーシ荷重条件と安全係数
 2.7  構造要素の設計
 2.8  シャーシ応力解析
 2.9  衝突保護

Chapter 3  サスペンションリンク
 3.1  レーシングカーサスペンションへの導入
 3.2  ホイールのキャンバーとグリップ
 3.3  ダブルウィッシュボーンサスペンション(前面から見た場合)
 3.4  ダブルウィッシュボーンサスペンション(側面から見た場合)
 3.5  ダブルウィッシュボーンサスペンション(上面から見た場合)
 3.6  ウィッシュボーン応力解析
 3.7  サスペンションのケーススタディ

Chapter 4  スプリング、ダンパー、アンチロール
 4.1  はじめに
 4.2  スプリング
 4.3  ダンパー
 4.4  アンチロールシステム

Chapter 5  タイヤとバランス
 5.1  はじめに
 5.2  タイヤ
 5.3  レーシングカーのバランスどり

Chapter 6  フロントホイールアセンブリーとステアリング
 6.1  はじめに
 6.2  フロントホイールジオメトリー
 6.3  ステアリング
 6.4  アクスル設計とベアリング
 6.5  アップライトの設計と分析
 6.6  ホイールの固定法

Chapter 7  リアホイールアセンブリーと動力伝達
 7.1  はじめに
 7.2  クラッチとギア
 7.3  ディファレンシャル
 7.4  ドライブシャフト
 7.5  ユニバーサルジョイント
 7.6  リアホイールベアリング
 7.7  リアアップライトの設計
 7.8  ローンチコントロール、トラクションコントロール、クイックシフト

Chapter 8  ブレーキ
 8.1  はじめに
 8.2  ブレーキシステムの設計

Chapter 9  空気力学
 9.1  はじめに
 9.2  流体力学の原理
 9.3  ウイング
 9.4  フロアパン
 9.5  その他のデバイス
 9.6  空力的バランス
 9.7  設計手法

Chapter 10  エンジンシステム
 10.1  はじめに
 10.2  吸気(自然吸気エンジンの場合)
 10.3  強制吸気エンジン
 10.4  燃料吸入
 10.5  排気系統
 10.6  エンジンマネジメントおよび点火
 10.7  冷却
 10.8  潤滑

Chapter 11 セットアップとテスト
 11.1  はじめに
 11.2  サスペンションのセットアップ
 11.3  テスト

Appendix A   パセイカのタイヤ係数の導出
Appendix B   管材の特性

自動車用語とその意味
参考文献
索引

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