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『アビームコンサルティングのメタバース金融レポートのどこに違和感を感じたのか?』~【新しいWeb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.8.9

■メタバース空間における金融サービスの現状と今後の展望

アビームコンサルティングによるメタバース×金融サービスの現状分析と未来展望分析レポートです。

メタバースの市場規模は拡大する、
メタバースが流行れば金融需要も増える、
メタバースに関する金融需要が増えたときの具体的な需要や取引はどうなるか?

ざっくりした記事の流れはこんな感じです。

現状分析は綺麗な図説もあって「まとまってる」感はあります。しかしちょっと違和感を感じました。

今回は「アビームコンサルティングのメタバース金融レポートのどこに違和感を感じたのか?」をお伝えしてみたいと思います。


■このレポートは誰に向けて書かれたもの?

違和感を感じたのは、このレポートが既存の金融事業者に向けて書かれたものだろうという点に起因しています。

メタバースの特徴の一つとして、アバターを通じた現実世界の制約を排除した自由な自己表現が可能な点があげられる。アバターを通じた自由な自己表現はすなわち匿名性が重要な要素となるが、こと金融活動においてはKYC・AML/CFTの観点から必ずしも匿名性を優先できない

お金を貸し付けるのだから当然KYC=本人確認やAML/CFT=マネロン&テロ資金供与対策は必要だよね。と言っています。

金融規制当局から見れば金融事業者に対してKYC・AML/CFTをしっかりやることを要求するのは当然です。

しかし犯罪者やテロリストから見れば、既存金融を絡めなくてもDeFiやDEXを使うはずです。(いや犯罪者のテクニックはわかんない。記録が残るブロックチェーンは使いにくいかもしれない。)

犯罪者やテロリストではなく健全なメタバースユーザーでも、DeFiのレンディングを使って資金調達したり、トークンをIEOさせて資金調達するケースもあると思います。

このレポートではDeFiやDEXという事業者不在の金融システムが存在しないことになっているように感じます。図説に「金融機関」はあってもDeFiやDEXは登場しませんし、KYC・AML/CFTが必ず必要という書き方になっています。

図説の「金融機関」をDeFiに置き換えても成立するのでそう読めばいい、という感じではありますが、なかったことにされているのは違和感を感じます。


■現実×メタバースの2軸4象限

今後、メタバース空間では、現実世界で発生している金融活動に概ね準じたサービスが開発・提供されると前述したが、各金融サービスの提供形態として、4つの類型が考えられる(図3)。

類型1はメタバースを現実世界の金融サービスの営業チャネルとして捉えた形
類型2はメタバース空間における諸活動に対する現実世界の金融サービスの提供
類型3はメタバース内での活動に対するメタバース内での金融サービスの提供
類型4は現実世界・メタバース双方の活動に対する金融サービスの提供

現実とメタバースの組み合わせ4象限なので「現実×現実」「現実→メタバース」「メタバース×メタバース」「メタバース←→メタバース」「メタバース→現実」というパターンに自ずとなります。

かつメタバース金融の話をしているので「現実×現実」は除外、そして理由はわかりませんが「メタバース→現実」も省かれています。

ここの章は重要なSolutionを示す部分なのですが、なんか当然のことを言われた感じがします。

類型4はあまり深く考察されておらず具体性が乏しいと感じました。

現実世界・メタバースそれぞれに閉じたサービスではなく、アバターと実在人双方を対象とした金融サービスとなる。今後デジタルツイン含め、メタバースと現実世界を跨ぐサービス開発が活発になることが想定されるが、例えばメタバース空間上でのバーチャルトリップと現実世界の旅行双方にまたがる保険商品開発などが想定される。

あくまでもアバターの裏側には現実の人間がいるという前提です。「現実世界の旅行」に「メタバース旅行」が組み合わさるというサービスイメージが上記だとよくわかりません。これなら「現実×現実」の旅行保険商品に特約を付帯させれば済むんじゃないでしょうか。


■金融機関はDEXをやれない

「メタバース×メタバース」「メタバース←→メタバース」で暗号資産建ての融資貸付をやるならDeFiでいいんじゃないかと思います。しかし現実の金融機関は概念上Decentralizingされることがあり得ない(管理機関が実存する)ので「金融機関がメタバース上にDEXを作る」というのは言葉が矛盾します。


■現実に存在しないアバターユーザーの想定

アバターのユーザーもKYCできない真のバーチャルな存在が登場することも想定されていません。

でもメタバースではアバターと裏側の人間が1対1じゃないケースはあり得ます。裏側の人間が存在しないケースもあり得ます。

アバターがAI化、NPC(Non-Player Character)化してAI Botがお金を借りる主体になるというSFではなくて(それも未来にはありそうですが)、プロジェクトとしてのアバター×運営はDAO×DAO共同のトレジャリーウォレット、というケースも今後あり得るはずです。

DAOが融資契約の主体になるとして、DAOの主体性が多くの国でまだ認められていないので、実在の金融機関からすると融資対象になりえないということだろうとは思います。


■あくまでも現実世界の金融機関が実在する人間に融資する場合のレポート

地に足のついたレポートではありますし、実在の金融機関の人が「メタバースをビジネスチャンスに活かすにはどうすればいい?」を知るために役に立つレポートだと思います。

しかしメタバースが「どうぶつの森」のような、普通のサービスのひとつと捉えられているのは狭い感じがします。

インターネットが登場した当時、雑誌社や新聞社が今の現状くらいダメージを食らうことをすぐには想定できませんでした。今回のレポートも「今が続くとしたら」の枕詞が付いているような気がしたのです。

金融機関に対するレポートだとしたら、メタバースの可能性や影響範囲をもう少し危機広めに取って時系列的な対策を促した方がいいんじゃないかと感じました。


■変化を痛感している金融機関に響くのは

きっと今の金融機関は大きく変わらざるを得ません。メタバースのせい、ではなくきっとDXやFinTechやDeFiのせいで。そのことは当事者である金融機関の方が痛感しているはずです。

それを大前提にした時のメタバースによる変化と対応の方がきっと金融機関も納得感があるんじゃないかなと。今の金融商品を今の人に売る、銀行の行員にアバター姿でメタバースで営業してこい、メタバースで開業したい人に貸し付けてこい、じゃあ弱いよなぁと思った次第。

「アビームコンサルティングのメタバース金融レポートのどこに違和感を感じたのか?」の一番はコレです。

“Wallet”、”Identification”、“Rule”の3つを挙げるなら、Walletで与信を取る方法、Identificationがトラストレスで実行される世界、そんな前提が当たり前になっている時代のRule、を示唆した方がこれからの金融業界の変化には役に立つんじゃないかなと思うのです。

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