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『味の台湾』焦桐著を読んで

焦桐著 川浩二訳 みすず書房 2021年出版

 朝日新聞の書評に取り上げられていたから、読んでみようと思った。

 料理についての文章ってどんなことが書けるのか疑問だった。食レポが難しいように、おいしい、とか、食材の形態を述べたりとか、いろんな方法が考えられるのだろうが、私は今、文章書くことを考えるうえで、食べ物については一番書くのが難しいと考えていた。日本ではレシピが載っているのが普通だが、それ以上のものはないのかと。ある日、ニューヨークタイムズのマガジンでマクドナルドのフィレオフィッシュバーガーについて述べられている文章が、フランスのプルーストのマドレーヌのかの有名な一説に例えられている展開になっている記事に遭遇した。驚愕した。それはそれで面白かったのだが、今回、この書籍『味の台湾』を読了して、私も食事に関してなにか書ければいいな、と心から思った。

 この本は台湾の地元の料理を紹介しつつ、筆者の思い出や文化などたいへん興味深い散文形式になっており、とても読みごたえがある。まず、思うのが、この焦さんってすっげー食いしん坊なんだな、ということ。食材の原産地から、作り方、料理名の由来、おいしい店など、ほんとになにからなにまで知り尽くしている。自分でも料理をする方らしく、店で売られている料理がどのやって作られるのかも、よくわかるように書かれている。レシピが載っていないのは残念だが、料理ができる人が読んだら、なんとなくわかるだろうというくらい手順が分かる。また、店の名の紹介もすごい多数。実際、台湾に行ってこの紹介されている店に食べに行ってみたいと思ったくらい、あらゆる店が紹介されている。

 やはり、マクドナルドがプルーストに結びつけられるくらい食べ物が記憶と結びついているのはどこの国でも同じだ。コンビニで買える卵ひとつとっても、それをどこで誰と食べたのか、はっきりと残る。それは時に幼いときの思い出であり、切なくなったりもする。けれど、人は食べるから元気が出て明日もやっていこうと思う。そういう当たり前のことなのだが、この本ほど、食べ物と共に生きているのを感じさせる書籍はないだろうと思う。それも、全部生まれ育った地元、台湾の料理だ。果たして、私は日本料理といわれるものに限定してこれほどのことは書けないと思う。それは、台湾がとても豊富にその食生活を潤してきた証であろう。コーヒーやお茶などの紹介もあったが、一度は廃れてしまったものが復活して台湾名産とよばれるまでになったものもあるらしい。また、中国からはもちろんだが、日本の天ぷらなど、異国からの吸収も目覚ましい。

 途中で著者の奥さんがガンで現在亡くなっていることが分かるのだが、それも、食事の思い出と結びついていて、胸からこみあげてくるものがある。きっと、奥さんと食した料理は食べるたびに彼女を思い出すだろうと思う。

 私は、北部ではルーロウファンと呼ばれるバーソープンを食べたいと思ったが、台湾料理ってもっと日本で流行っていいのではないか、と思った。刈包(マントウに具が挟まったもの)がニューヨークで流行ったように、小吃といわれる屋台で売られているような料理は、読んでてほんとに舌鼓を打ちたくなったのだが、こういった台湾料理を出す屋台が日本にも増えたらよいなと思った。学生が帰りに立ち寄って買い食いすること間違いなしである。

 台湾の方が日本語で執筆したのではないかと始め思ったくらい、翻訳がすごく良かった。さくっ、とろっ、といった食べ物を表す擬音が的確すぎて、いや、その料理は実際見たことないんだが、見たことない私でも、目の前に現れてくるような描写であった。


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