見出し画像

【読書感想】ファン多し作家ーー『カート・ヴォネガット全短篇1』を読んで

大森望監修 早川書房 2018年出版

 なんでうちの最寄りの図書館はこのヴォネガット全集全4巻を買いそろえたんだろ。全然貸し出されてないんだけど。人気なし。私は嬉しいが。

 この一巻目は、「戦争」と「女」というテーマで短編がまとめられている。ちなみに「女」としてまとめられているセクション2は、日本語のこの翻訳本では二巻目にまたがっているので、これから読もうと思っている方はご注意を。

 「戦争」という題のもと集められたセクション1は、ヴォネガットの個人的な戦争体験が下敷きになっていくつか短編が編まれている。戦争中にお腹がものすごく減って、家の地下に忍び込んで保存食を盗むというシーンがいくつか出てきた。大森望さんが書いたこの一巻目の最後に書かれた解説にもあったが、たぶん、この体験はヴォネガット個人的な思い出なんだろう。今、ウクライナで戦争が起こっているが、実際ヴォネガットが書く戦争にまつわる短編を読んでたら、とても一人一人の顔が見えるもので、ある物語を背負った人たちの姿が見えてきて、戦争ってそもそもそういう普通の人たちの集まりが軍隊になって戦っている、という話なんだよな、と改めて思った。テレビのニュースだけをみていると、そういうことを忘れてしまいそうになる。文学の力を感じた。

 「女」というセクションは、やはり、時代を感じる。いわゆる、とても女性らしい女が登場して、会話してるシーンなんて読んでたら、もしかしたら、英語でこういう会話は読んだ本が面白さが増すのかもしれない、と思った。アメリカのこの時代のドラマなどで出てくる女っぽい人が頭の中をよぎる。ヴォネガット読んでると、原書で読んだ方が、おもしろいんじゃないか、とふと思うことが多い。なんか淡々とした、変なことを当たり前のように言っているとことか、英語の方がピンとくるような気がする。そう思って、『タイムクエイク』という長編を原書で読んでみたことがあったが、全く意味が分からなかった。日本語訳を読んで、こんなの原書で理解できるわけないな、と思ったが。短篇は挑戦してみたいと思った。新しい発見がありそう。

 ヴォネガットが生きていた時は、こんなにいっぱい短篇は発表されていなかったらしい。没後、いろいろ発見されて発表されたらしい。ヴォネガット死後、ご家族やら、親戚やら、関係者が精力的にヴォネガットが残した資料をまとめていると思われる。
 なんか素敵な話ね。やはり、ファンが多いからかな。


この記事が参加している募集

#読書感想文

190,781件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?