見出し画像

語学の研究とはーースティーブン・ピンカー著『言語を生みだす本能』を読んで

 スティーブン・ピンカー著 椋田直子訳 NHKブックス 1995年出版

 メモを整理してたらこの本のタイトルが書いてあって、なんだろ、と思い出すのにしばらく時間がかかったが、高校の頃の恩師が私に勧めてくれた本だったのだ。

 大学受験の時、どこの大学を選んだらいいか分からなかった私は、その先生に相談したのだった。私が言語に興味があるといったら、その英語の先生は、この本を読んでみるといいよ、といっていた。その後、私は語学科は不合格で、文学部に入ったので、すっかりこの本のことを忘れていた。先生が「私が大学時代出会った本で、読んでよかったと思った本」とまでいっていたので、どんなことが書かれているんだろうと思って、ずいぶん時間がたったが今になって読んでみた。

 この著者、スティーブン・ピンカーさんはちょうど私がこの本を読んでるころに、朝日新聞に記事を寄せていた。全然言語とは関係のない話だったので、彼の幅広い知識に唸ってしまった。この本は人間がどういうふうに言語と向き合っているのか、習得するのか、とか、あらゆる学問の領域からの見解が述べられていて、言語が面白い、と思うと、こういうマニアックな、なんでもなく使っている言葉とかに敏感になるよな、事細かに論じたくなるよな、と思った。そして、彼にはユーモアのセンスもあって、ちょっと笑ってしまいたくなるような個所もあり、研究書というより、読み物として面白い。

 人間が言葉を取得して操れるようになる、という誰でも難なくやっているこの不思議さに、いろんな実例をもとに、アプローチしていく。私は、言語に興味があるから言語学をやろう、と大学を選ぶときに思っていたけど、今、このピンカーさんの本を読むと、認知言語学があったり、いろんな学問が考えられるんだな、と思った。高校三年生の時、そういういろんな可能性に触れることができなかった自分を悲しく思う。どの学部を受験しようかな、と思ったとき、そういう思いをしたことがある人はいるのではないか。

 言語に興味があるというと、言語学系と学問的には分類されるのだが、私が言語に抱いていた興味に比べると、言語学研究はとても閉鎖的な研究のように思えた。高校の恩師は、文学部よりも語学系に進んだ方が良いといってたのは分かる気がするし、語学研究者が、ひとつずつ活用とか文法とか発音とかマニアックなことを考えているのは私の体質にあってるな、と思ったが、いわゆる言語に興味があるということは、もっといろんな分野を総合してアプローチしてかなきゃ解けないことがいっぱいあるのではないか、と思ったし、この本はそういういろんな方向から言葉を捉えているので、たいへんおもしろかった。そういう本って、この本が出版されるまでなかったのかも。

 語学や言語学の研究が閉鎖的ではなく、もっとオープンにいろんな分野から研究されるとよいと思う。


この記事が参加している募集

#読書感想文

188,615件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?