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【読書感想】胸が握りしめられる読後ーーハン・ガン著『ギリシャ語の時間』を読んで

ハン・ガン著 斎藤真理子訳 晶文社 2017年出版

 ハン・ガンの小説をもっと読んでみようと思って、この2017年出版された本を図書館で借りて読んでみた。

 「ギリシャ語の時間」というタイトルに惹かれた。学部時代、古典ギリシア語を履修していた私は、韓国の小説で、ギリシア語という言葉が小説タイトルになるのは珍しいと思った。自分は何も考えないで、フランス語を勉強し、ラテン語、古典ギリシア語を履修してきたのだが、日本人の私がこんなこと勉強してるなんて、かなり異質なんじゃないかと改めて思った。今まで全然考えなかったけど。この本読んだことで、お隣の韓国の小説に、ドイツへ留学し、哲学に興味があり、ギリシア語を勉強してて、という話になんかアジアでこういう西欧の歴史に影響された人の話って改めて読むとなんか新鮮だな、と感じた。

 この小説は、そんなギリシア語を教える男性と、言葉を失った女性が出会う話。断片的な文章で構成されていて、物語の筋が流れているわけではないので、ちょっと読みづらかった。詩的な表現が多い。ハン・ガンはいろんなスタイルで文章を書くことに挑戦してるが、この本は、小説と散文詩が混ざった感じ。でも、最後の方で、男性と女性が口づけするとこまで読むと、それまで途切れ途切れだったストーリーがうまく終結を迎えるように思えて、なんだか、ほーそういうことなのね、と思った。

 ボルヘスやプラトンについて言及があったり、ところどころに古典ギリシア文字が挿入されていたりで、とても高尚な雰囲気ただよってる小説だが、古典語にある中動態の話とかはやはりされていて、そういうところがこの言語勉強するとき魅せられるよね、と共感した。そして、斎藤真理子さんのあとがきにもあったが、國分功一郎さんの『中動態の世界』という書籍にも触れられていて、この国分さんの本がとても多大なる影響を与えたと改めて思った。

 こういった細かい言葉などに込められた伏線が結構あるようだが、それが読み込めないとしても、ハン・ガンが描く男女の恋のお話はどこか胸がぎゅっと締め付けられて、心の一部を握りしめられたような感じの読了後を味わう。


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