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【読書感想】オリエンタルな変態性ー会田誠の『性と芸術』を読んで

会田誠著 幻冬舎 2022年出版

 会田誠の新刊。≪犬≫という作品についての解説と、性について思うことが文章化されて掲載されている。

 作家が自分の作品についていろいろ述べるのは極めて珍しいことのように思う。それほど、作品が問題作としてTwitterなどに上がってくるらしく、会田誠の≪犬≫という作品にそれほど関心がない私としては、そうなんだ、と思って読んでいった。こんな作品観てたら構想が思いついた、とか、モデルさんにこんなポーズをとってもらった、とか、この絵ができるまでの制作過程がちゃんとわかるようになっている。思想的なものの説明もちゃんと書かれているように思った。フェミニズム的にアウトな画題だとか、一目瞭然であるが、その当時のポルノの背景であったり、雑誌ガロの影響であったり、芸術の捉え方であったり、一通り述べられていて、きめ細やかに説明されている。ので、ほんとに、めんどくさい人たちに、いっぱいいろいろ言われてきたんだな、と苦労がよく分かった気がする。

 私が興味深かったのは、会田さんがすごく日本的なものを自分のテーマにしていることだ。いや、それは絵のテーマ設定や扱う素材、日本画を書いてるとことか、いろんな面から彼の作品を観れば分かることなのだが、それ以上に、第二次世界大戦に敗戦してその後の父権を失った国、日本としての意識が思った以上にあった。というか、そういう世代的に自分に付きまとうテーマというのはどんな人にもあると思うけど、これが、80年代に芸大にいって今現代美術の領域で活躍する作家さんなのか、となんだかしみじみと思った。現在の芸大生とは全然違うし、今40歳になっている私とも違う。人それぞれだけど、会田誠のもつ普遍的な「日本に住む日本人の私」が表現活動をすることの一つのスタイルのような気がした。けど、そもそもこんな本書かなくたって、多分私が作家だったら、作品観て分かることを感じてくれればいい、という人だと思うので、こういうことしてくれなくてもいいよ、と思うけど、そりゃ、自分の意見聞いてほしいと思うことも人だからあるとは思う。というか、Twitterでそんなに批判されてたら沸々とした気持ちが湧いてくるだろう。たぶん、会田さんは書きたい人なんだと思う。

 第二部の「性」を読んでて、おもしろい表現にぶち当たった。オナニーしているときに、相手の女性になる、という。ふーん。性的な行為は主客一体しやすいけど、まさか、男性がオナニーしてるとき、女性になってるとは思わなかった。私にとって、発見であった。もっとこういう話、してほしい。

 とにかくこの本は、会田誠の作品についてあーだこーだ言うんだったら、絶対読むべきだし、別に興味がない人も、現代の日本の美術の歴史を概観するなら、ぜひ読んでおくとよいと思う。


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