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意識について 2(夢理論のNEXTUPモデルなどの観点から)

この「意識について」の中編では、最近の夢理論「NEXTUPモデル」も取り上げながら、夢と夢のない眠り、レム睡眠とノンレム睡眠について、そして、それらと対応する思考の種類について考えます。


*3つの投稿では、以下の意味で次の言葉を使います。

覚醒:寝ておらず、起きていて自分の体験に自覚のある状態
睡眠:夢のある眠りと、夢のない眠りの両方の状態
夢見:睡眠中に夢を見ている状態(意識がある)
熟睡:深い睡眠状態ではなく、夢を見ない眠りの状態(意識がない)
想起:記憶を思い出すこと


レム睡眠とノンレム睡眠


普通、我々は、「覚醒」、「夢見」、「熟睡(夢のない眠り)」という主観的な3種類の意識の状態を巡ると考えています。
そして、前の2つでは意識があると。

ですが、レム睡眠とノンレム睡眠が発見されて、「覚醒」、「レム睡眠」、「ノンレム睡眠」という生理的な3種類の意識状態を巡るのだという考え方も生まれました。

この主観的な3分類と生理的な3分類の関係について、当初は、レム睡眠時に夢を見て、ノンレム睡眠時には夢を見ないと、単純に考えられました。
ですが、後にノンレム睡眠時にも夢を見ることが発見されました。

そして、レム睡眠時の方が、やや夢を見ている可能性が高く、その夢を覚えている可能性が高い。
一方、ノンレム睡眠時の方が、やや夢を見ている可能性が低く、夢を覚えている可能性が低い、ということが分かってきました。
ノンレム睡眠は4段階(N1~N4)に分けられますが、深い段階だと夢見がなくなるわけではありません。

人は一晩に何度も夢を見ていますが、覚えていても、一つだけです。
夢を覚えていないことがあるならば、レム睡眠であれ、ノンレム睡眠であれ、常に何らかの夢を見ているのではないか、という疑問が浮かびます。
実際、そのように考えている研究者もいます。

私は、睡眠中の夢の有無と、意識の有無、記憶の有無、想起の可否との関係を、しっかり論じたものを読んだことがありませんが、下記のように考えています。

前編でも書いたように、ニューロンは、熟睡状態でも、覚醒時と変わらないほど活発に活動していることが分かっているので、常に何らかの体験があるはずです。
ですから、夢の有無を分けるなら、意識の有無で定義するしかないでしょう。

つまり、レム睡眠であれ、ノンレム睡眠であれ、睡眠中には、おそらく、意識のない状態があり、それが熟睡(夢のない眠り)の状態であると。

そして、夢見の状態、つまり、意識のある状態には、後に想起できる(思い出せる)状態と、想起できない状態があるのでしょう。

ただ、想起できない夢見でも、記憶されている可能性があるので、記憶の有無はまた別の話です。

また、熟睡状態は意識がなくても、それを記憶している可能性、思い出す可能性は、困難であったとしても、ないとは言い切れないでしょう。

ちなみに、脳科学的には、レム睡眠時には、視床や大脳皮質は刺激されていますが、前頭葉の活動が抑制されている状態です。
一方、ノンレム睡眠時は、大脳皮質が抑制されている状態です。

また、記憶には2種類あって、短期記憶は前頭葉に、エピソード記憶は海馬と扁桃体に記憶されます。
そして、記憶の想起は、覚醒中も夢の中でも、大脳新皮質全体で再構成されます。

ですから、レム睡眠は短期記憶が不得意で、ノンレム睡眠は記憶の想起が不得意なはずです。


夢見の目的とNEXTUPモデル


夢の目的については、睡眠を扱う諸学問では、いろいろな説が唱えられてきました。
脳の休憩や成長促進だとか、記憶の強化・消去・整理、情動の調整、問題解決や未来に備えたシミューレーションなどです。

精神分析学では、夢は、抑圧された願望が形を変えた表現で意識に登って実現されるものです。

私は、フォーカシング指向心理療法やプロセス指向心理学が考える意味、つまり、まだ自我や言葉に受容されていない認識や思考、様々な精神作用の表現であるという考えが好きです。
あるいは、解決すべき精神的な問題を解決に導くための表現(告知であり処方箋)です。
それらは、なんらかの人格の変容や価値観の変容をもたらすものになります。

*フォーカシング指向心理療法とプロセス指向心理学の夢理論、夢見の実践については、下記を参照ください。


ですが、ここでは、睡眠段階を踏まえた分かりやすい最近の夢理論として、アントニオ・ザドラ、ロバート・スティック・ゴールドが提唱している「NEXTUPモデル(可能性理解のためのネットワーク探索モデル)」を紹介します。

この理論によれば、夢の目的は、覚醒中に思いつかない連想によって過去の記憶を探索して、新しい問題と結びつけて、将来的に役立つような知識を見つけることです。
そして、それを機能の異なる睡眠の諸段階を繰り返し移行することで果たします。

人の脳は、人が特に何かをしていない時には、過去の出来事を思い出して未来に起こることを想像したりする「マインドワンダリング」ということを行っています。
この時、続行中の処理案件を取り上げて、その解決法を想像したり、案件をマーキングしたりします。

入眠時には、この「マインドワンダリング」を行っています。

入眠後の最初のN1(ノンレム睡眠の第一段階)の夢見では、入眠時の「マインドワンダリング」のテーマを継承して、検索的な連想をしますが、この時点では問題のマーキングの方に重点があります。
この時の夢は、自己表象や物語性のない、思考的なものです。

次のN2の夢では、テーマを、最近の具体的なエピソード記憶を連想してそれに結びつけます。
この時の夢は、不鮮明で短いものです。

*参考にした書では、なぜかN3、N4について触れていません。

その後の、レム睡眠では、古い記憶の中から、関係性の弱い一般化された意味的記憶を暗喩的に連想して、それを結びつけます。
この時の夢は、奇妙な内容で物語性がある、情動の大きな夢です。

連想がつながりの弱いもの(合理的なつながりではないもの)になるのは、セロトニンやノルアドレナリンが抑えられるからです。

その後、一晩のうちでレム睡眠とノンレム睡眠の夢を繰り返して、検索、結びつけを繰り返します。

・入眠時 :処理案件のマーキング  :マインドワンダリング
・N1   :マーキングが主      :物語性のない思考的な夢
・N2   :最近のエピソード記憶の連想:不鮮明で短い夢
・レム睡眠:古い一般的意味記憶の連想:物語性のある奇妙な夢

夢見の状態では、合理的な思考を抑制しているとは言え、様々な記憶を検索して結びつけるということは、前編で紹介した統合情報理論に照らし合わすと、意識を発生させる条件になっていると思われます。

ですが、NEXTUPモデルは、意識論ではないので、夢における意識の意味については、直接的には語りません。
意識がないと、検索や連想や結びつけの決定ができないとは思えません。

この理論は、一定の説得力がありますが、良くも悪くも常識的な発想で、もちろん、夢のすべてを説明するようなものではないと思います。


3種類の意識と思考


先にも書いたように、ニューロンは、熟睡状態でも、覚醒時と変わらないほど活発に活動していることが分かっています。

覚醒していても、夢を見ていても、熟睡していても、あるいは、レム睡眠時でも、ノンレム睡眠時でも、常に脳は思考していると思います。
そのあり方が違うだけで。

結論を先に書けば、私は、覚醒状態では合理的思考が優位、レム睡眠時(の夢見)では連想的思考が優位、そして、ノンレム睡眠時(の夢見)では直観的思考が優位になると思います。

・覚醒    :合理的思考が優位
・レム睡眠  :連想的思考が優位
・ノンレム睡眠:直観的思考が優位

覚醒状態は、3つの思考が併存していますが、合理的思考が優位です。
連想的思考や直観的思考は、行っていても、意識していない、意識できないことが良くあります。

NEXTUPモデルでは、レム睡眠時の夢では、関係性の弱い連想が行われると言います。
これは、合理的な思考が抑制されて、連想自体の働きが優位になるため、合理的ではない連想が行えるようになる、ということだと思います。

ノンレム睡眠で見る夢については、良く分からないのですが、ノンレム睡眠時に起こされて、夢を見ていたと記憶している人の報告では、夢は、漠然とした、とりとめのないもので、何かイメージを持っていたような気がする、何か考えていたような気がするといった体験です。

ノンレム睡眠の夢見では、おそらく合理的思考も、連想的思考や物語性も抑制されていて、直観的思考が優位になるのではないかと推測しています。

この直観的思考は、フォーカシング指向心理学の言う「体験過程」や「フェルト・センス(感じ取られた意味)」に当たります。


睡眠時の意識と、記憶、想起


通常、覚えている夢のほとんどは、レム睡眠時のストーリーのある夢だと言われています。

ですが、起きた時には、それを思い出せても、10分もしたら、具体的な内容を思い出せなくなることがよくあります。
逆に、起きた時には覚えていなくても、日常の中で、ふとした時に思い出すこともあります。

また、ある夢を見ている時、覚醒時には思い出せないのに、以前見た、似た夢を覚えている(知っている)ことがあります。

夢の記憶、あるいは、想起は、弱く、不思議です。

夢には、短期記憶しかされない夢があるかもしれません。
また、何らかの理由で自我から思い出すことを抑圧されている夢もあるでしょう。

ですが、そもそも意識化しにくい夢もあるのではないでしょうか。

我々は、覚醒状態では、同時に、様々なものを見、聞き、内外のものを感じ、思考しています。
そのうち、意識している働きはごくわずかです。

同様に、夢でも、意識しているのは、その体験のごく一部なのではないでしょうか。

起きた後、夢の具体的な部分は忘れてしまっても、漠然としたフィーリングや直観的なものだけが、残っていることがあります。
そして、その漠然としたものに集中していると、具体的な部分を思い出すことがあります。

フォーカシング指向心理療法やプロセス指向心理学が言うように、その漠然としたものが夢の本質にあって、具体的な部分はその派生物でしかないのかもしれません。

そして、ノンレム睡眠時の夢や思考は、その本質に近い直観的なものかもしれません。

後編で論じますが、いくつかの神秘主義的な思想の伝統でも、そう考えてきました。

はっきりした言葉やイメージのない直観的な思考は、明確に意識することが難しく、記憶すること、さらには想起することは、もっと難しいものです。

なぜなら、空間的にも、性質的にも、意味的にも形態がなく、自己表象もなく、通常の時間感覚もないだろうからです。
ノンレム睡眠時には眼球が動かないので、空間感覚もないかもしれません。

連想的思考には、合理的思考と似た時間感覚があり、レム睡眠時の夢見には物語性も存在します。
ですが、直観的思考には通常の時間感覚がないので、ノンレム睡眠時の夢見には物語性が存在しないのかもしれません。

通常の我々の記憶や、自我との関係で、体験を時間に添って並べることで成り立っています。
自我も、時間感覚も、物語性も、形態もない体験は、意識化しにくく、記憶しにくく、想起しにくいのではないでしょうか。


*主要参考書

・「夢を見るとき脳は 睡眠と夢の謎に迫る科学」アントニオ・ザドラ、ロバート・スティック・ゴールド(紀伊国屋書店)
・「睡眠学I」宮崎総一郎、北浜邦夫編著(北王路書房)



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