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ゲーマーだった少年も今では保育士やってます!#10〜新米保育士時代編 最終回


元少年ゲーマーが新米保育士として働き始めた、自伝的エッセイ風物語。今回は最終回です。
新米保育士時代編はこれで完結します。
マガジンにも掲載中です(全10話)!↓


【あらすじ】
保育園に就職して1年目。
一緒に組んだ先輩は保育園で
一番大きな影響力を持つ人だった。

彼女の影響力は強大で

誰も彼女に意見を言えない状況が
続いていた。

たが、保育の知識、経験、技術はトップクラス。

反面、かなり厳しい保育スタイルは、
子どもたちや後輩保育士から恐れられ、

周りを支配し続けている。

それだけではなく
保育園では彼女の派閥が
多くのシェアを占めており

その取り巻きによって
気に入らない保育士たちを
徹底的に退職へと追い込んできた。

彼女は、その叱責が
鋭く落ちる稲妻に似ていることから
カミナリ⚡先生と呼ばれている。

そして、カミナリ⚡先生を
取り巻く保育士たちが増えた事で、

その派閥は『カミナリ⚡一族』と呼ばれ
発展していった。

一族のTOPに君臨する
カミナリ⚡の女王の圧倒的な権力の前に
あらがい続けるものの

重圧に耐えきれず、次第に保育スタイルが
カミナリ⚡先生へと寄っていってしまう。

そんな中、年度末の最後の懇談会で
保護者の言葉に救われ、
自分を取り戻したのだった。


     パワーバランス

懇談会で保護者からでた発言。

それは、カミナリ⚡先生のやり方によって
子どもが保育園に行き渋っている事を
遠回しに伝えた形になった。

過去にも、カミナリ⚡先生のクラスでは
行き渋りが多発していた。

でも、全てが園長経由で
オブラートに包まれながら
処理されてきた。

そう、処理されていたのだ。

根本的な解決は、なされていなかった。

だから、この異常な状況が
長年続いてきたのだ。

離職率の高さ、ピリピリした雰囲気、
同調圧力、長いものにまかれる体質、

その全てが、何事もなかったかのように
見過ごされてきた。

新米保育士フォルテは
丁度、その渦中に
この保育園に就職したのだ。

懇談会で
1人の勇気ある保護者の発言によって
もたらされた余波は
1人の新米保育士の心を救った。

同時にそれは、
絶対的な権力を持っていた
ベテラン保育士の心を動揺させた。

年度末という慌ただしい時期ではあるが
クラスのパワーバランスに
少し変化が生じて始めていた。


     進級1週間前

保護者の思いと
子どもの気持ちに支えられ
圧の強い先輩保育士の言葉はもはや
気にならなくなっていた。

今でも変わらず、先輩保育士は
カミナリ⚡を落とし続けている。

でも

オレには、
子どもと親に寄り添い続ける覚悟ができた。

子どもには、
守ってくれる人がいるという安心感ができた。

保護者には、
安心して預けられる先生への信頼関係ができた。


圧の強い先輩保育士に耐えるには
十分すぎるくらいの条件が整ったのだ。

カミナリ⚡はもはや空回りしている。
カミナリ⚡が落ちたとしてもオレたちは
もう、動じない。

子どもたちや保護者との
信頼関係があれば
こうした圧力にも
立ち向かうことができる
エナジーが生まれる事を
オレは学んだ。

何の知識も、経験も、技術もない
未熟な新人だったけど

熱量を絶やすことなく持ち続ければ
結果は必ず、ついてくる。

腐りそうになっても
救ってくれる人が、必ずいる。

それを教えてくれたのは
子どもたちと、その保護者だった。


      進級前日

この子たちはまだ、卒園するわけではない。

だけど、明日から
一緒にいられなくなることが
たまらなく寂しかった。

同じ建物にいるはずなのに

担任が変わるというだけで
なぜ、こんなに距離を感じてしまうのだろう。

残念ながらオレは、
持ち上がることができなかった。

救いなのは、カミナリ⚡先生も
持ち上がらなかったということだ。

最後の日、オレはその日のリーダーで
1日を動かしていた。

一緒に食べる給食やおやつ、
トントンするお昼寝、
午後の自由遊び、
遅番保育、
その全て、1分1秒を大切に過ごそうと思った。

帰りの集まり。
出席シール帳を返す時間。
1年間貼り続けたシール帳は
みんなボロボロだ。

中を開くと毎月、貼り続けたシールたちが
子どもたちの頑張りを物語る。

泣くもんか。卒園するわけでもあるまいし。

そう思いながら一人ひとりにシール帳を手渡す。

返事が返ってくるたびに
子どもとの思い出がよみがえる。

つらかった事も、楽しかった事も、
うれしかった事も、悲しかった事も
子どもたちと共有した全てを
一人ひとりの顔を見て
思い出す。

きっと、辛かったことの思い出の方が
多くを占めてるんじゃないかな。

でも、その辛さを乗り越えたから、
今があるんだ。

この子たちと出会えて
本当に良かった。


      最後の挨拶

子どもたちが次々と帰っていく。

一人ひとりの子どもと、保護者に挨拶をする。

何度も言うが卒園ではない。
明日もまた、会えるのだ。

だから、寂しさなんて感じる必要はない。
そう言い聞かせるが、
………やっぱり寂しい。

何人もの子どもから手紙をもらった。
3歳児だから、字はたどたどしい。

字が反転してるね(笑)
消しゴムのあとがスゴイよ(笑)
全部絵だね(笑)
などなど、一生懸命書いた事が
とてもよく伝わってくる。

その一生懸命な姿を想像するだけで
愛おしく感じる。

もう、それだけで嬉しいじゃないか。
その気持ちだけで十分じゃないか。

でも、オレは泣かない。
泣くのは、この子たちが卒園する時だ。

だって、明日もまたこの子たちの
元気な挨拶を聞くことができるのだから。

それだけでオレは、十分幸せなのだ。

              新米保育士編 完


ここまで読んで下さりありがとうございました🙇

子どもたちからもらった手紙は
今でも大切に保管してあります。

大切な宝物です。

受け持った子どもたちはもう、
ハタチをすぎ、それぞれの歩む道で
元気に生活していることでしょう。

直接連絡を取ることはなかったけれど
たまに、風の便りで
『〇〇君、サッカーチームに入ったんだって』
など、その都度元気な様子を聞きました。

また、小学校や中学校の運動会を見に行った時も
元気な子どもたちに会うことができました。

嬉しい限りです。

その後もたくさんの子どもたちと出会い
卒園を見送ってきました。

どの年代も、大切な思い出です。

彼らに出会えた事、その思い出全てが
宝物となって、心に残り続けています。

今まで出会った子どもたちや保護者のおかげで
保育士として成長することができました。

そして、今もなお、
保育士を続けることができています。

感謝の気持ちを込めて。


次回、新米保育士時代から2年後を描いた
【年長クラス編】をお届けします↓

よろしければ、またのぞいてみてください🙇


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書いたエッセイ集はコチラ↓
読んでいただけると嬉しいです!


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