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4月6日(火)雨の日、恵文社。

雨の日は無性に泣きたくなる。
それは悲しいとか虚しいとかそういう冷たくて孤独なものではない。

「帰りたい」と思う。
わたしはいま下宿先、つまりは自分の家にいるから帰っているし、実家に帰るとはまた違う。実家にいるときだって雨の日はそう思う。

帰りたい。
一体どこに帰りたいんだろう。

恵文社さんに行った。
いつもInstagramで本はチェックしているのだけれど、行くたびに目的の本を探し回るのは違うなと思って結局違う本を買う。
その時のその時の出会いを大切にしたいのだ。

この間は見なかった棚を見たり、新しく本を手に取ったりするとき、それが今の自分を色濃く反映しているような気がして、少しの驚きと恥ずかしさを感じる。
「あなた、いまこういうことに悩んでいるでしょ?」「こういうものに興味があるでしょ?」と凄腕の占い師に見透かされるような。
ドキッ、どうしてわかったんですか……?と言いたくなるような。
本は意固地な心の底をするすると引き出してしまう。

ずっと欲しかった『ひかり埃のきみ』という本を買った。
初めてお店に入ったときに見つけて、それから何度もその本を買おうと足を運んだ。でもやっぱり違う、今じゃない、今がその時だ!という感覚を待ちたい、しっくり来たときに初めて買いたい、と先へ先へ伸ばしてそのしっくり来たときというのが今日だった。

運命の出会いは予定しているものとはだいぶ違うことの方が多い。それはとても楽しいし面白いこと。でもたまに、両方が合致する時がある。そのときは虹がかかるような、流れ星が流れるような、そういう嬉しさに包まれる。


恵文社は売り物を見ることも楽しいけれど、そこにいる人たちを見るのも楽しい。「最近書いてる?」「締め切り近いんですよ」「おう、頑張ってな」という会話が店員さんとお客さんの間で交わされる。ああ、あの人たちは物語や日々を紡ぐ人たちなんだ。どんな言葉でどんなことを語るのだろう。

あのご婦人はどんな本を手に取るの?あの子は?その人は?と人の見ている本が気になったり、服装や身につけているアクセサリーを見て同じ趣味を持っているなと思ったりする。
みんな知らない人だけれど、みんな本を読むという共通点がある。それぞれの運命の出会いを求めてあちらを見たりこちらを見たり店内をぐるぐると回る。常連さんかもしれないし、初めて来たのかもしれない。楽しいよねここ、落ち着くよね、わかるわかる、その本とってもいいよね、わたしも気になってこの間買ったんだよ、なんて一人で勝手に親しみを持ったりする。
もしかしたら、話しかけると案外スっと仲良くなれるのかもしれない。


結局、今日は3冊の本を持ってレジへ向かった。
カバーお付けしますか?と聞かれてお願いしますと言ったけれど、本当は表紙のままの方が好き。ああ、またやってしまったなと思いながら、お兄さんが丁寧に包むのを見届ける。家に帰ったら外してしまうんです、ごめんなさい。でも今日は少し肌寒いから、家に帰るまでそのカバーであたためてあげよう。

店から出て、雨が降りそうだなと思った。
今日は雲が重たくて、出かけたときには青空が見えていたけれど、帰りは低い天井があるような空だった。

雨が降りそうだ、と肌で感じられるのはとてつもなく愛おしいと思う。
干した洗濯物をしまうまではどうか降らないでくれよと願いながら足早に帰路を歩く。


早々と歩みを進めるわたしの前に猫が現れた。

この子は以前にも、散歩をしていたときに見かけたことがある。
野良にしては毛並みがいいし、肉付きもいい。どこかの家の子なんだろうか。
警戒はするけどそそくさと逃げたりしないのも人間慣れを感じさせる。
ねこは可愛いな。街中で見かけるとどうしても目で追ってしまう。


帰って洗濯物を取り込んで、それからお茶をした。
並々と注いでしまったほうじ茶にくすりと笑いつつ、恵文社さんで買ったお菓子をお皿に出した。
にんにんクッキーとココアのかりんとう。

歯ごたえ、ボリボリ、保存料も添加物も入っていなくて安心、素朴な味わいでやみつき。お店に行く度に買ってしまう。すっかりファンになってしまった。


食べながらそういえば、と思い出す。
今日はリュックに頓服薬を入れるのを忘れた。
そのくらい身軽に外に出れたのだった。
気がついて少し嬉しかった。

やることもいろいろと済ませて、やっと落ち着いて一人暮らしの感覚を思い出せそうだ。
素敵な本たちを読みながら、明日もゆったり過ごそう。


おしまい

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