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「注文の多い料理店『序』』宮沢賢治より

ある時 ふかく味わう読書がしたいと 心にわいて 
なかでも詩によりそい 歩んでみたいと 思うようになりました。

詩は暗唱がしやすく すぐにその世界をたちあげやすい 
そこがいい。
濃くあじわうためには すこし噛みごたえがあるものも またいい。
古語のように すこし意味がおぼつかなくても 音がうつくしいものは多く 
読まれることを待つ詩が ひろがる景色を目にしました

本棚をひらきなおし ひとり 愉悦の読書をはじめましたが 
ときどき 読んでいると浮かぶ色彩があります
たとえば『注文の多い料理店』の「序」の中に。
短文のなかに色があふれ 澄んだ空気のような透明感が最後までつづきます。
 
絵にしあがるまで浮かび続ける色があるか、ないかは単純に 
詩人が色名をつかって、詩を詠んでいることが 第一歩です。
それをひたすら たどることができれば 絵の完成につながります。
つまり、描くことで読んでいるのだと思います。 
読んでいて置きたくなった色、と言うとわかりやすいかもしれません。


詩と絵をならべて掛けるこのnoteは みなさまの心に どのように届いていますか。
これもまた 詩が与えてくれる ふかい喜びのひとつです

『注文の多い料理店』序
 わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃(もも)いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
 またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗(らしゃ)や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
 わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
 これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹(にじ)や月あかりからもらってきたのです。
 ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。
 ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
 けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾(いく)きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。
  大正十二年十二月二十日
宮沢賢治



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