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女性によるイギリス小説の「愛すべき奥様」たち

女性作家が描く愛すべき奥様、もしくはオールド・ミスって案外多いのではないかと思う。
キーパーソンとなるそんな女性たちって、コミカルだったり、欠点があったり。でも、どこか憎めない。
イギリス小説に登場する奥様たちを、私の好みで紹介します。
(既婚女性を奥様、と呼ぶことについては異論は認めます)

孤独な主人公と打ち解ける奥様

ジョージ・エリオットの中期の作品である長編『サイラス・マーナー』。ドリー・ウィンスロップは典型的な「おかみさん」気質で、困っている人を放っておけない。

そのため、突然赤子エピーを拾ったサイラスを気にかけて何度も訪ねては、「新しい生活」へ誘導する。ドリーの協力があってこそ、偏屈だと誤解されていたサイラスは村人たちと打ち解けることができた。

何より、ドリーの息子エアロンは、物語の最後にエピーと結ばれる。

この手の登場人物はとにかくセリフが長い。しかし、このお喋りな人物が、孤独な主人公と社会とを繋ぐ役割を担って物語が始まっていく。

結婚に意見する奥様

オースティンの『説得』では、主人公のアンが周囲からの説得によって、まだ若く金のなかった恋人との結婚を諦め、婚期を逃したところから始まる。

実父のほか、亡くなった実母の親友でずっと目をかけて育ててくれたラッセル夫人までもが結婚に反対していた。

このアドバイスは実際はおせっかいだったわけだが、ラッセル夫人は自分の過ちを認め、アンの結婚相手を懸命に愛そうと努力する。

逆に、どんな相手でも「とにかく娘が(金のある)誰かと結婚できるなら!」と結婚をごり押す、『自負と偏見』のベネット夫人のような奥様もいる。

が、喜劇的に見えるこれらの奥様は、実は世の中の潮流をきちんとわきまえていて、娘たちの幸せを切に願っているのである。そこがまた、オースティンの痛烈な皮肉が効いているポイント。

夫に献身的に尽くす奥様

同じくエリオットの『ミドルマーチ』に出てくるハリエット・バルストロウド。
一言で言えば「夫の罪を許す女性」である。

頭が良いわけではなく、少しおせっかい。でも安心感があり、コミュニティのみんなに頼られる良心的な女性。
夫と生涯連れ添う意志を固める場面は、グッとくるものがある。

こういった女性が物語の展開を左右するキーパーソンになっていることは見逃せない。

エリオットは、こういった「母性」を持つ女性たちを愛情をもって描いているように思う。

規範を体現する存在

こんな感じで、物語の主軸以外の部分に目を向けてみると新しい発見があるもので。
このようなヴィクトリア時代の奥様は、ある意味規範を体現する存在。女性作家がこのような人物を描く、というのが重要な意味を持っているような気がしている。

海外文学で異文化理解をしようとするとき、また、時代を越えようとするとき、こんな楽しみ方もありなんじゃないかと思う。

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