【IDと教員研修3】教材設計のためのTOTEモデル

前回は,TOTEモデルの内容を確認しました.
今回は,実際の教員研修での活用方法を考えたいと思います.


事前・事後テストを想定する

TOTEモデルは,入口(現状)と出口(学習目標が達成された状態)を決め,そこに到達するまでの操作(学習活動)と,操作に取り組む必要性を判断するためのテストがあるというプロセスでした.

テストは事前と事後に行われ,事前の場合は,次のステップに進むために操作が必要がどうかを判断するために行われ,事後の場合は,学習目標を達成するための知識や技能等が習得できているかどうかを確かめるために行われます.

当たり前のことですが,事前・事後テストは,学習目標の内容と紐づけて行われます.学習目標を達成するための腕試しのようなものです.

ICT操作研修の場合

具体的に想定してみましょう.

GIGAスクール構想によって,児童生徒に1人1台の情報端末が整備されました.これまでは教師が,教材提示や拡大,ノートの共有などに利用していたICT機器の活用が,子供主体での活用にまで広がります.

GIGAスクール構想で整備された情報端末には,標準機能で,文書作成ソフト,表計算ソフト,プレゼン作成ソフトなどが無料で使用できるようになっています.これまでは,教師が授業を進めるために意図的なタイミングで使用してたICTも,子供自身が,これらの機能を意図的に選択して学習を進めていくことが考えられます.

このようなICT活用への意識の転換を含め,教師自身も,文書・表計算・プレゼン作成の仕方を子供に指導できるような操作スキルが求められます.

では,教師が子供に指導ができるレベルのICTの操作スキルを習得する場合の研修では,どのような目標が考えられるでしょうか.

文書作成ソフトを例にします.

学習目標には,知的技能,言語情報…といった様々な種類があります(これらは別の記事で紹介します.知りたい方はこちらを参照).

今回は,「文書作成ソフトを用いて,指定されたテーマの文書を,図と表を入れて作成することができる」とします(知的技能).

例えば,テーマは「小学校の運動会の案内文書」とし,「全学年の種目とタイムスケジュールを表で示す」「運動会の雰囲気が出るイラストを挿入する」といった条件を出すとします.基礎的な文書作成の方法として,子供が成果物を作成する時の指導につながります.

このような学習目標を立てたとすると,「出口」では,次のことができている必要があります.

  • フォントの種類,大きさ,色を指定して文書作成できる.

  • 指定通りのセル数で表を作成できる.

  • 目的に合った図を検索し,著作権に配慮して選択できる.

  • 目的に合った図を選択し,挿入できる.

4つに分けて考えました.これが,事前・事後テストで確認する項目内容になります.
例えば,「指定通りのセル数で表を作成できる.」であれば,事前テストに,「5列7行の表の作成方法を,画面操作しながら説明できる」というチェックリストを作成し,「はい」「いいえ」で判断できるようにします.
「はい」であれば,その項目は合格です.
「いいえ」であれば,その項目は不合格です.

「はい」「いいえ」でチェックできなければ,記述や選択肢で回答を求めることも考えられます.

事前テストが満点であれば,次のステップへ.
事前テストが1問でも不十分であれば,操作(学習活動)に取り組むことになります.
事後テストでは,事前テストと同レベルの内容が異なる問題が出題され,どのくらい学習目標を達成できているのかを判断します.

何ができて何ができないのかをセルフチェックするためにも有効

事前・事後テストを運用する際は,このように,学習者が自分の現状をセルフチェックするというイメージをもって作成することが大切です.

多くの教員研修では,事後「アンケート」として,感想や満足度等を収集することがあるかと思います.しかし,残念ながらこのような内容は学習者に還元されることは多くありません.研修そのものの評価に活用されます.

事前・事後テストは,学習者自身の現状を確認するためのテストです.
例えば,校内研修等においては,事前・事後テストを設定したとしても,学校全体で取り組む活動として,例え事前で不十分でも,十分でも,操作は必須,ということも考えられます.

このような場合,そもそもテストをする必要性が問われます.やってもやらなくても,操作をするのであれば,テストは必要がないのではないか.
もしくは,働き方改革を進めるのであれば,事前テストでふるいにかけて,必要な人だけ研修を受けてもらえば済むのではないか.

後者の考えは確かに合理的です.しかしきっと,職場に不穏な空気が流れることが容易に想像できます.

TOTEモデルの考えは,あくまでも自分自身が学習者として試行錯誤しながら学べるようにするための教材設計の工夫です.ですから,テストをしたらよいとか,テストを省いた方がよい,ということではなく,研修を進めるために,学習者がセルフチェックを行うための流れとして考える必要があります.事前テストを全員が行い,仮に全員が操作(学習活動)を行う研修であっても,きっと,全体が一律一斉の知識状態を前提に進める研修より,個別的な気付きの多い内容になると思います.

ぜひ,教員自身が自己の力量を自覚して行えるような教材設計につなげられるといいなと思います.

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