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ロマンティックメランコリーは美味しいし、サガンはきっと、マリア様。

神保町のとある古本屋さんにて。

路地に面した、堂々たる本棚の中から1冊、
ブルーが際立つ装丁の美しさに惹かれ、思わず買ってしまいました。

フランス人作家、フランソワーズ・サガン
『冷たい水の中の小さな太陽』

まずは簡単に、あらすじを。

パリの新聞社勤めの30代独身男性ジルは、いつも友人に囲まれ、陽気に遊んで暮らしていたが、突然ノイローゼに罹り、すべてに倦怠を感じるようになる。
彼は休養のために、美しき愛人エロイーズをパリに残したまま、故郷リモージュの姉の家に帰る。
リモージュでの休養中、姉に無理矢理連れて行かれた晩餐会で、ジルは麗しきシルヴネール夫人(ナタリー)に出会う。やがて2人は恋に落ち、ナタリーは地位も名声もある夫、そして立派な館を捨て、ジルと共にリモージュを発ち、パリで2人暮らしを始める。

ざっくり、そんな2人の恋物語。

流れとしてはとてもシンプルなのですが、心情の描写が、絹糸をすうっと指でなぞるように、繊細かつ丁寧で……。

そして名のない、あの、複雑としか言いようがない、感情のひとつひとつが嫌味なく、見事にむき出しにされているんです。
その露わっぷりが、愛しいのなんの……!

主人公ジルの行動なり、言動なりは、周りから充分過ぎるほどの愛情を受け、少なからず救われているにも関わらず、それを蔑ろにし、自己中心的に振る舞っているような印象があり……私はあまり得意なタイプではないのですが……。

サガンの文章は、決して私に、彼を「嫌い」だと感じさせないんです。

そういう激しい感情は、サガンの作品を前にした途端意味を成さず、何事もなかったかのように、静かに消えてゆくのです……。

というのも、サガン本人が、登場人物たちの人間性や感情に、敬意を持ちつつ真摯に向き合い、それらをやさしく包み込んでは全肯定する寛容さ、それは、言うなれば、マリア様の「神聖なる聖母の愛」のようなものを兼ね備えているからだと思うんですよね。

そのような絶対的な愛を前に、個人的な嫌悪感や苛立ちといった攻撃的な感情なんか覚えられるはずがなくって。(笑)

物語に出てくる女性陣(エロイーズ、ナタリー、そしてギルダ!)からも、同様の寛容性を感じたのですが、きっと彼女たちはサガンに滾る精神を受け継いだ、スモール・サガンなのだと思います。(スモール・サガン……!)

聡明で、ブレない芯があり、愛情のキャパシティに余裕があって、いつでも慈愛に満ちている……。私の目指すべき姿がここにありました……!

(↓こちらは等身大のサガン!)


さて、以下のポール・エリュアールの詩が、この物語の「全て」と言っても過言ではありません。

“未知の彼女はぼくのいちばん好きなかたち、
人間であることの悩みからぼくを解放してくれたひと、
ぼくは彼女を見、それから見失う、そして
ぼくはぼくの苦しみを享受する、
冷たい水の中の小さな太陽のように。”

(ポール・エリュアール)

なんてロマンティックで憂い詩なのでしょうか……。

恋に落ち、燃え上がり、時に一悶着し、哀しいかな、永遠に感じていたものが遂にはほろほろと崩れゆく……。

酔いしれるようなロマンスの甘美さと、魅惑的なメランコリーがうまい具合に絡み合いながら物語は進み、いよいよクライマックス。
最後の最後の5ページは、エリュアールの詩通り、はたまたその詩以上の、「孤独」のオンパレードでした。予想外の結末です。

そして、この孤独の終着点は物語の中では完結せず、読み終えた後も尚、じっとりと暗く、重くのしかかってきます。大変です。

というわけで、言い知れぬ感情になった私は、
このモヤッとした感じを、何とか形にしたくて、急いでnoteを始めてみたわけですけれども……。

ことばは纏まらず、もう朝の5:00に差し掛かります。

え!? 5:00!?

大変です。え、大変です。

要するに、あれです。

初めてのフランス文学、初めてのサガン作品。
とっても楽しかったのです。
今回で完全にロマンティックメランコリー(造語)の味を占めてしまいました。

実は母が、昔サガン作品を愛読していたようで。
実家に数冊置いてあるようなので、近々送ってもらって、他のものも読んでみようと思います。

『冷たい水の中の小さな太陽』。
グッときたことばや、素敵だなあ〜と感じる言い回しが多く(きっと朝吹さんの翻訳も素晴らしいのね!)、私の「名言ノート」が潤ったのですが、中でも個人的に好きだったところを、最後に、引用しておきます。

「人から盗んだ物が高くつくんだ、きみ、覚えていたほうがいいよ……」
ガルニエは爆笑した。
「……性倒錯者としてはばかに道徳的に見えるだろうが……。いつかきみが、きみの愛するものを恥に思うときがきたら、きみの終りだ。きみ自身に対して終りだ。本当だよ。じゃ、仕事の話に移ろう」

「いつかきみが、きみの愛するものを恥に思うときがきたら、きみの終りだ。」

(中盤でポッと出てきたガルニエの、このことばの回収があまりにド直球だったので、怖くて震えちゃった!)


以上、初めてのnoteでした。
ちぐはぐ忙しない、とっ散らかりの文章……。

ことばを味方につけたいとずっと思っているので、これから、ちょっとずつ練習していこうと思います。

記念すべき1発目。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

(最後まで見てくださった貴方。なんてお優しい方なの!愛を込めて)


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