【人が怖い実話17】地下鉄の男(フランス)
『バリ島のホテル(インドネシア)』(実話怪談7)の体験をされた健介さんの話。今度はフランス旅行中の出来事だ。
夜11時ごろにパリ市内の地下鉄でひとり、ホームでベンチに座って電車を待っていた。ホームには彼しかいなかった。反対側のホームも男性がひとり見えるくらいで、がらんとしていた。
「突然、反対側のホームにいる男が大声で何やら喚きだしたんだ。中年の男で、フランス語だったと思う。ちょうど自分の一直線上に立って、こっち向かって話しかけてる感じ」
言葉が解らない。周囲には誰もいない。どうすることもできない。まあ、そのうち駅員か誰かがなんとかするだろ、と思い無視していた。
ほどなくして、男は叫ぶのを止めた。
(気が済んだか)
健介さんが少し安堵していると、今度は男が、動き出した。
反対側のホームから線路にゆっくりと降りて、こちらに向かってずかずかと歩いて線路を横断してきたのだ。
そしてこちら側のホームによじ登り、ベンチに座っていた健介さんの隣に腰かけた。
「どうやら、物乞いだった。無言で僕の服のポケットに手を突っ込んで、まさぐってたから」
そのうちホームに電車待ちの客が増えてきて、その男性は去っていったそうだ。
「よく線路を横断できるよね。電車に轢かれるかもしれないのに」
彼は私にそう話したが、反対側のホームから不審な男性が向かってきても、全く逃げなかった健介さんの度胸も尋常でないと感じた。
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