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7月のかけらたち

追憶。あっ、と言うまもなく、と言うまもなく、終わった7月。あまりにも夏だった。夏はいつも短命だ。どうしようもなくまぶしくて、濃い影を残して去っていく。

これは7月の断片。断章。

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◯日

人生で経験できる夏には限りがある。ふっと気づいて、焦燥感に襲われた。私は夏が好きだ。いのちの気配が濃いところも、終わりの匂いが強いところも。どうしよう。また夏が去っていこうとしている。待って。私は夏が好きだ。好きだと言っても待ってくれない存在を、人は永遠と呼びます。


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◯日

小さい頃から、お線香の匂いが好きだった。お墓参りが好きだった。
社会人になってから、太宰治のお墓参りに行った。すごく不思議な気持ちになった。大学時代、一生分の『人間失格』を読んで、勝手に彼をすこし理解した気になっていたのに、私は彼のことをなにも知らなかった。ここにいるのに、ここにいない。ここにいないのに、ここにいる。生と死が穏やかに入り交じる場所。誰もいない夕方の墓地は、いつも現実味がない。現実を信じているほうが正気か、あるいは。夜の夢こそまこと?
友人から紙のお香をもらった。早く使いたい。


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〇日

なんとなく会話を聞いていて、そのひとが逡巡する瞬間、がわかった。勝手に通じ合った気がして少しうれしくなった。たった1秒の間、この人の頭のなかには、いろいろな思いが巡っている。そうして紡ぎ出された一言と、その行間を、私はとても愛おしいと思う。


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◯日

純文学然とした映画が好きだ。おすすめされた海外の映画を少しずつ観ている。感情を揺さぶられることを嫌う若者が増えているらしい。映画は倍速で観たほうがタイパがいいらしい。そんな。感情は揺さぶられるものだ、揺らして揺らして揺らした隙間から、こぼれる光のようなものを、なくさないようにかたちにする、それが表現だ。それから、映画は2時間かけて旅をするように観たい。好きなシーンは何度も反芻したい。私たちはひとつの人生しか生きられない。でも、数多の人生を追体験することができる。


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◯日

我気づく。放っておくと、仕事を永遠にしそうになる。でも、永遠にしているからといっていいものができるわけじゃない。息継ぎをちゃんとして、末永く書いていたい。でも、この息継ぎがまた書くことだったりする。久しぶりに長編小説を書いている。間に合えば僥倖。ちがう。間に合わせるんだよ。小説はいのちがけで書け。スイカバーを箱で買え。実はメロンバーのほうが好き。書くんだ。


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◯日

好きな俳優さんの写真展に行った。写真展。四方八方に好きな人。大変な情緒。
くるしかったとき、この人の言葉に救われた。言葉を好きになった人のことを、私はずっと好きだと思う。いつかありがとうを言いに行きたい。あなたがいてくれることで救われたと。中村倫也さんとお仕事がしたい。書きたい。書きたい。写真展で買ってきた雑誌、どきどきしちゃってなかなか読めない。


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◯日

つよくなりたい、と言って、呼吸法を教えてもらった。そういえば人は、吐くより吸うほうが難しいらしい。俺には修行が足りない。yeah、人生は長いんだぜ。


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◯日

ひとりで居酒屋に入ってノンアルコールビールを飲んだ。カウンター席で江國香織さんを読んだ。外は祭りでにぎやかで、テレビでは夏の特番をやっていた。私はひとりだった。ひとりではなかった。


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◯日

久しぶりに神保町に行った。私は定期的に神保町に行かないと禁断症状が出てしまう。東京に行くと会ってくれる友達がいてうれしい。元気かな。また会いたいです。


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◯日

森を見るとすごい、と思う。ビルを見るとすごい、と思う。上を向いて歩こう。時々足元を見よう。転ぶから。転んだら痛いと言おう。立ち上がるのは痛みを自覚してからだ。


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◯日
朝6時に外を歩いた。遠い夏、ラジオ体操に向かう朝とおなじ匂いがした。夏休み帳がほしいと思った。渾身の絵日記をつけたい。



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25回目の夏。ひぐらしが鳴いていて、まるでもう終わっちゃうみたいで、かなしくなって空を見て、そのまま心にコピペした。ショートカットキーを使わない、思うままに切り取る夏だ。断章。気が向いたら来月も。


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