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陰陽
お向かいの奥様が羨ましい。
車通勤のご主人はお仕事でご不在の事が多く、来客も少なそうだ。
彼女は家で1人でゆっくりする時間が、沢山有るんだろうな。
「週末に大学時代の友人達が来るから。」
「明日は咲ちゃんと玲奈ちゃんが来るの。」
「遥斗君とお泊り会しても良い?」
「今度の連休は沖縄へ行こう。」
「この日は創立記念日でお休みだから、ディズニーへ行きたい!」
「僕、キャンプしたーい!」
夫も娘も息子も大変社交的でアクティブ、つまり陽キャだ。
交友関係が広く、来客が絶えない。
来客が無い休日はいつも外出したがる。
対する私は読書やゲームが大好きなインドア。
人見知りで、友人は少なく、家で1人での時間を幾らでも楽しめる陰キャだ。
結婚前は私と正反対の夫が頼もしく、毎日が刺激的だった。
夫も正反対の私が新鮮だったのだろう。
夫の友人達の交流や外出も楽しめたが、それが日常となると、とてもしんどい。
「奥さんは大人しくて控え目なんですね。」
「こいつ、生粋の陰キャで暗いんだよー。」
夫の友人家族達とのBBQで、いつもそう言われる。
夫は完全な在宅勤務だ。
積極的に家事や育児をしてくれるのは助かるが、ずっと家にいられると、少し息苦しい。
夫は収入が多く、私が働く必要は全く無かったが、私は会社を辞めなかった。
ママ友付き合いから逃げられるし、何より、会社の自席で過ごす時間が癒しなのだ。
「三浦さん、例の新刊、もう買いましたー?」
後輩の江口君は私を旧姓で呼ぶ。
本、漫画、ゲームが好きな江口君と話し出すと、楽しくて止まらなくなる。
江口君は見た目は今時で、オシャレな好青年。
明るく、友人が多そうな陽キャに見えるが、学生時代は大人しかったらしい。
「俺、昔から陰キャなんですよー。
部屋で1人で漫画を読んだり、ゲームをするのが大好きで。
小学生の時、何を血迷ったか、誕生会を企画したんです。
殆どの子から、用事が有るから行けないって断られて、行けるよと言ってくれた数人にもドタキャンされました。
母がとても悲しそうで、申し訳無かったですね。」
笑いながらも、少し切なそうに彼は言った。
私も彼と同じだ。
小学校の授業参観後のレクリエーション。
皆が名前で呼び合う中、私だけは苗字で呼ばれる。
今の小学校では、クラスメイトを苗字にさん付け、名前にさん付けで呼び合う様になっているが、当時はまだ、あだ名や名前で呼び合っていたのだ。
「あなた、皆から三浦さんって呼ばれているのね。」
母は複雑な表情でそう言った。
ある時、通っている小学校の卒業生の親がいる生徒の家へ行き、小学校の昔の様子を聞く、という宿題が出た。
母が卒業生だった為、私の家も対象だった。
どの家へ行くかは希望制。
秋本さんの家へは5名、田中さんの家へは8名、中村さんの家へは7名の生徒が挙手した。
「では、次。
三浦さんのお家へ行きたい人ー?」
誰も挙手しない。
「ちょっと。
三浦さんのお家へ行きたい人はいないの?
三浦さんのお母さんがお話しを聞かせてくださるのよ?」
それでも誰も挙手しない。
私は泣きそうだった。
「先生、もういいです。うちは辞退します。」
と言いたかった。
結局、先生が私の家の近くに住む生徒3名を半ば無理矢理選んだ。
母は嬉しそうに迎えたが、嫌々家に来たその子達に申し訳無かったし、惨めだった。
こんな調子だったので、誕生会なんか企画しても、誰も来てくれなかっただろう。
いつもより少し遅く帰宅すると、夫と子供達が部屋の飾り付けをしていた。
「ママ、お帰りー。
急なんだけれど、明日ね、少し早いハロウィンパーティーをする事になったの。
莉緒ちゃんや蒼君達が来てくれるの。
パパがご馳走を作ってくれるんだ。」
「僕のお友達も来るんだよー!」
「遅いじゃん、残業?
たまには飲みに行くとかして、俺を不安にさせてくれよな!
ハハハ。」
経済力が有り、家事や育児に協力的な夫には心から感謝している。
子供達は凄く可愛い。
でも、私は夫や子供達の様にはなれない。
この家にいると、とても居心地が悪く、寂しくなる。
でも、もうすぐ私の味方が出来る。
お腹の中にいる赤ちゃんだ。
この子はきっと私似だ。
母としての直感で分かる。
夫や子供達には似ないだろう。
この子の親はどちらも陰キャだから。
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