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ゆるく働いていたつもりがメンタルダウン。ゆるふわフリーランスが考える、双極性障害との付き合い方

「ゆるふわフリーランス」という肩書きで、作家やインタビューライターとして活躍しながら、ご自身の特性であるADHDとうまく付き合うためのライフハックなどを発信されているゆぴさん。

そんなゆぴさんが2024年の1月、ご自身のnote「双極性障害」になられたことを公表されました。

note冒頭では「いや、嘘や〜〜〜〜〜〜〜〜んという気持ちが未だにデカい」とおっしゃっており、ご自身が双極性障害になられたという事実に驚かれたそうです。

私(サチコ)自身が初めて社交不安症になったときも、ゆぴさんと同じような気持ちになり、「これからどうやって自分と付き合っていけばいいんだろう」と不安になったことを覚えています。

そんな不安を抱えている方々が「自分だけではないんだ」と安心感を得られるようなメディアを作りたいと考え、記念すべき第1弾としてゆぴさんにインタビューを実施。

双極性障害と診断されるまでの経緯や、診断されたときの率直な気持ち、今後の双極性障害との付き合い方などについて伺いました。

いしかわゆき(ゆぴ)
ADHDとHSPを抱えながら、生きづらい世界をいい感じに泳ぐために発信を続けるライター、作家。著書『書く習慣~自分と人生が変わるいちばん大切な文章力~』は3万部超でベストセラーに。その他著書に『ポンコツなわたしで、生きていく。』『聞く習慣』など。「書く+a」のスキルを学ぶスクール「Marble」運営。(X@milkprincess17) 

やれることはやったのに、眠れない日々。もしかして「病んでない?」


ーーゆぴさんはnoteなどでご自身のADHDや睡眠に関する悩みごとを発信されているイメージがありますが、 今回メンタルクリニックを受診しようと思ったきっかけは何でしたか?

ゆぴ:
私はもともと寝つきが悪いんですけど、あるとき本当に眠れなくなってしまったことがあって。

枕を変えたり、マットレスを変えたり、いろいろ投資はしてみたんですけど、「全然眠れないな…」と思う日が、増えてきているのを感じていました。

でも、やれることはやって、できる限りストレスがかからないようにしてるにも関わらず、眠れない。「もしかして、アンコントローラブルなことが自分のなかで起きているのかも」と思いはじめました。 

そんなときに、登壇したイベントで違和感を覚えたことも大きかったです。普段はオンラインの登壇なんてそんなに緊張しないのに、そのときは登壇前から動悸が止まらなくなって、言葉がうまく出てこなかったり、パニックになってしまい、いよいよ「これはおかしいぞ」と。

ーーそんな辛いことがあったんですね。

ゆぴ:
夜中に希死念慮が止まらないこともあり、客観的に「え?なんか私病んでない?」と気づきました。

あとは、まわりにメンタルダウンを経験した友人が多いことで、受診ハードルが下がっていたのもあります。新卒のころに、毎週日曜日の夜に過呼吸が止まらなくなる友だちを見ていたので、「人はすぐ病む」という事実を知っていたことも受診のきっかけのひとつですね

だからこそ、わたしは自分の様子がおかしいことに早めに気付いて、「風邪をひいたから内科に行く」のと同じような感覚で受診を決めました。

双極性障害は骨折と同じ感覚。体調をシェアすることはマイナスなことじゃない

ーー「風邪ひいたから内科に行く」という感覚でメンタルクリニックを受診するという発想は新鮮ですね。メンタルクリニックを選ぶ際に心がけたことはありますか?

ゆぴ:
確実に通いつづけることが大事だと思ったから、まずは近場であることですね。

あとは、最新技術を取り入れてるところにしました。話を聞いてもらって判断するだけじゃなくて、客観的に評価できる指標があるほうが信用できるような気がしたんですよ。 

ーー目に見えないからこそ、信頼度が大事ですよね。検査を受けて、最終的に双極性障害の診断を受けた時は率直にどんなお気持ちでしたか?

ゆぴ:
「えー、マジ?」みたいな(笑)。

もともと身近に双極性障害の人がいたので病名は聞いたことがあったけど、症状については詳しく知らなかったので、うつ病との違いがわかりませんでした。

先生によると、うつ病は脳のネットワークの接触が悪いから思考するのが難しくなるのに対して、双極性障害はネットワークが同時多発的に繋がっている状態。つねに何かをぐるぐると考えているらしいです。

さらに、もともとADHDだから「脳が過敏」だとも言われました。人から言われたことをずっと気にしてしまったり、音や光、目線でなどストレスを受けたりしやすい性質があるそうです。

「たしかにそれは、眠れないはずだ…!」と納得がいきました。

ーーそれはどんどん悪循環になってしまいますね。そんななかで双極性障害になられたことをnoteで公表されましたが、公表自体にためらいはなかったですか?

ゆぴ:
ためらいはないですね、だって、骨折と同じじゃないですか。「骨折したのでしばらく歩けません」とお知らせするのと同じで、怪我や病気の状態はお伝えしておいたほうがお互いに良いかな、と。自分の体調をシェアするのは別にマイナスなことじゃないと思いますね。

真の「ご自愛」は自分ファーストで生きること。身体と心の声を聞いてあげよう

ーーゆぴさんは診断を受けた今もバリバリお仕事されているように見えますが、生活スタイルに変化はありましたか?

ゆぴ:
「ストレスフリーで生きていくこと」って、すごく難しいんだと改めて気づきました。

もともと「ゆるふわフリーランス」として負荷をかけずに生きているつもりだったけど、実際は自覚している範囲外のストレスを受けていたから、双極性障害になってしまったわけで。

例えば、わたしは診断を受ける少し前にシェアハウスに引っ越して、それなりに楽しんでいるつもりだったんですけど、それが実はすごいストレスだったみたいで(笑)。

でも、双極性障害の診断をされてからは、自分のなかでシェアハウスの過ごし方をコントロールするようになりました。

シェアハウスにいるからには「みんなと交流しなきゃ」と思ってたけど、「今週は疲れてるから自室に引きこもろう」とか、「1人でのんびりアニメでも見ようかな」とか調整するようになりましたね。

ーーなるほど。それまではかなり積極的に交流されていたんですか?

ゆぴ:
うん、飲み会とかキャンプとか、かなり参加していました。「誘われることはありがたいことだから行こう」って。

でも、最近では心から行きたいやつだけ行って、自分が疲れたと思わない程度に関わり方を調整するようになりました。もともとは、体調が少し悪くても、頑張って行くタイプだったんですよね。

でも、診断されてから改めてまわりを見てみると、みんな意外と予定を断ってることに気づいて…。自分の体調に従って、人生をコントロールするために予定を動かしてもいいんだと思えるようになりました。

ーー診断を受けたことによって、ほかに気づきはありましたか?

ゆぴ:
これが本当の「ご自愛」だ、って思いました。

「ご自愛」て、アロマを焚いて、バスソルトを入れたお風呂に入って、ヒーリングミュージックを聞く…みたいなイメージだったけど、全然違う。

真の「ご自愛」は自分ファーストで生きること。心ファーストも大事だけど、まずは身体ファースト。心は友達との約束を守りたいと思っていても、身体が悲鳴を上げていたら、ちゃんとその声を聞いてあげることが大事だと思います。

ーー身体の変化って自分にしかわからないですもんね。

ゆぴ:
わからないですね。わたしってもともと身体が丈夫なんですよ。風邪も2年に1回くらいしか引かないし、熱を出しても薬で下げて学校に行っていたぐらいで(笑)。体調に対してすごく鈍感だったんです。

でも、今回みたいにすぐには治らないものを抱えたことで、これまで自分に無理をさせていたことに気づきました。

ーー過去のご経験が今に影響しているんですね。ちなみに、双極性障害に対しては投薬治療をされているんでしょうか?

ゆぴ:
投薬治療はしているんですけど、薬が恐ろしく合わなくて…。

双極性障害を治す薬と睡眠薬を組み合わせているのですが、脳のネットワークが繋がるのを抑えるような薬なので、頭が回らなくてボーッとしてしまい、仕事にもプライベートにも支障が出ています。睡眠薬だけにしてみたり、飲む時間を夕方にしてみたりと、まだ模索中の段階です。本当に使いものにならなくなっちゃうので、自分のベストを探しながら仕事と両立させる難しさを感じています。

ーーたしかに通院にも時間がかかりますもんね。今はどのぐらいのペースで通院されているんですか?

ゆぴ:
2週間に1回くらいですね。メンタルクリニックって平日の日中でも結構人がいるし、待ち時間も長いんですよ。注射して治るような病気でもないので、問診に時間がかかるんだと思います。

実際にクリニックに通ってみて、「こんなに1人で戦ってる人がいっぱいいるんだ、みんなえらいな」と思いました。

自分を大事にするのはめんどくさい。だからこそ、「マスト」で取り組む

ーー公表していないだけで、実際に悩んでる人は想像より多いのかもしれないですね。最後に、双極性障害などの診断を初めて受けた方々へ向けて、ゆぴさんからお伝えしたいことがあればお聞きしたいです。

ゆぴ:
わたしも効率厨なんで「早く治れよ」とか思ってるんですけど(笑)。通院はめんどくさいし、いつ治るのかもわからないし、そこが骨折との違いですよね。

ーーたしかに、3ヶ月で骨がくっつきますよ、ってことではないですもんね。

ゆぴ:
そうなんですよ。だからもう生活の一部に組み込むしかないと思っています。「ご自愛」って1回やればいいものではないと思うんです。

日々やるべきことだし、もはや仕事だと思うんですよね。「やれればなおよし」じゃなくて「やらなきゃいけない」マストで取り組むもの。

例えば、「この彼氏と付き合ってるとストレスだな」とか、「この仕事をやってるとイライラするな」という些細な違和感を放置せず、いかに最小限にするかがご自愛だと思うんです。

だから正直めんどくさいですよ、ご自愛するのも(笑)。

長年付き合っていた彼氏に別れを切り出すのもめんどくさいし、上司に仕事について相談するのもめんどくさいじゃないですか。

ーーたしかに、そう言われると「ご自愛」って結構ハードルが高いですね。

ゆぴ:
そうなんです。だけど、ご自愛も仕事のうちだと思って、ストレスを減らす努力を怠ってはいけないというのはお伝えしたいですね。

ちなみに、私の双極性障害の原因のひとつは「失恋」なんですよ。

私的には失恋なんて些細なことだし、初めての経験でもないから、「そんな些細なことで!」と思っていたけど、そんなことでも人は病むんです。

だから「私はなんて弱いんだろう」と思わずに、自分を責めないでほしいですね、人は普通に病みます。

私はどうせ病んでしまうのなら、もっと堂々と病める世界であったらいいな、と思うので、オープンにご自愛していこうと思います。

***

自分に負荷をかけずに生きていくことに重きを置きつつも、双極性障害の診断を受けたことで「本当のご自愛」に気づくことができたというゆぴさん。

お話を伺っている私も「自分は本当のご自愛ができているだろうか」と、改めて考えなおすきっかけとなりました。

また、双極性障害含め、メンタルダウンによる病はどうしても周囲に公表することを躊躇してしまうこともありますが、「メンタルダウンも骨折と同じ」というゆぴさんの考え方が新鮮で印象的でした。

メンタルダウンも骨折や風邪と同じ「心の風邪」のように捉えられるようになると、付き合い方に前向きな変化をもたらすことができるかもしれません。

〈取材・文=サチコ(@oshitoissyo)/編集=ゆぴ(@milkprincess17)〉


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