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あるひとりの述懐

 ひとりで逝つた彼のために、今まで物語を紡いできた。
 そして書き終へたといふ確信を得たとき、ぼくは初めて孤独になつた。
 信念だとか目的だとか、生きるためのすべてを消化してしまつた。ここから先、残されてゐるのは、輝かしい未来などではなく、ほんの少しばかり罪人に与へられた余生に過ぎない。
 しかし生きなければ、これこそ罰である。友人の死をおもしろ可笑しく書いて名を得た、裏切り者の当然の末路である。
 当時は見向きもせず、逃げたくせして、死んでから呪われたやうに貴方を描きつづけた、愚か者にこそ相応しい。
 ぼくはこれから不幸になるから、一生不幸で生きてゆくから、だうかそれで許してくれ。あの世があつたら話さうね。ごめんね
 令和二年三月十一日

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