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短歌連作「夏、濃く匂ふ」

白浪のやうに浮き立つ五月雲
児らの聲立つ夏や近づく

恋ふる人夢なら覚めね月影に
風と雲ゆけ夜よ永らへ

病みがちな君の心を晴らさうと
けふも歌詠む夏届きませ

春ゆきて白き綿毛の野原満つ
風吹け児らよ遠く旅立て

ふさぎこむ君の心に晴れあれと
言の葉送り風を吹き込む

死を選ぶ人ゐるからこそ生きてしが
世を見人を見文字をこそ書け

夏風に草刈る人の音すれば
青き匂ひの濃くなりにけり

潮風うしほかぜむせかへり来し夜半ひとり
煙草くゆらせ月くもらせる

山際に彼より高き雲そびえ
かたち手を振り遠くにぞ消ぬ

朝の風おほきく吸へば青あをと
夏の草立ち虫のこゑする

草刈られ仆れしものや夢の跡
惜しむか鳥のついばみに来ぬ

人の目にれるがごとくこもる月
みなは昼間に君を忘れて

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