短歌連作「春を看取る」
万朶の芽いつ春来るとたづねては
耳朶に雪消の風や吹き抜く
別れ告ぐ花束さへも生花なり
時は停まらぬ戻らぬと知り
ぎりぎりの生を謳歌す野良猫と
人恋ひ知らぬ吾は似たりける
春の夜の風まだ寒く心だけ
君と話して温もりを知り
亡き祖母の夢で抱きしむ温もりは
さめて布団の冷たさを知り
言葉だけなくて心は悲しくて
一人し思ふ我はひとりかと
春雨に頭もたげし蕾らの
なみだはた落つ桜咲へば
窓の下雨ふる小夜も明けぬれば
蕾や青み春近かりけり
しんしんと雪の冷たき凍みる手を
あったかいねとにぎる顔美し
眠い目でこすれど消えぬ面影は
きつといつしか私を殺す
花びらよ耐えよ雨夜を明日の陽に
雫照り返す君を見たくて
香ぐはしき春の風吹く陸奥の
妻ごみするや燕恋ひ知る
葉桜に一輪残る君だけは
夏の匂ひを少し知れたね
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