「同じものなど」
またもや違ふ秋が来る
変はり始める山の彩り
指先から伝ふ風の冷たさ
思ひ出されるあの日々と
同じものなどひとつもない
またもや違ふ冬が来る
真白に染まる野の原に
一羽降り立つ鴉は黒く
去年にも見た景色でも
同じものなどひとつもない
一縷の煙草の煙さへ
君と交した言葉さへ
流るる雲の形さへ
同じものなどひとつもない
君だけゐないこれからを
また来ん春に君はなく
春の桜と還ることなく
一人し憶ひながらなく
同じものなどひとつもない
この美しき泥濘の世を
だうして失望できやうか
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?