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自分が経験できなかった世界線の話

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#雑筆

「東京」

「東京」

 何処へ行っても、煩わしい程に人。「自粛」「死ね」「別れろ」その構成要素たる我が身を棚にあげ、すれ違い様に呪いを振りまいて、ヨタヨタ歩く。

 交差点が真っ赤に染まると、辺りはオーケストラが第二楽章を終え次の準備をする時のような、余韻で満たされる。急に風邪をひいたの、と心配になるくらい、老男女が一斉に咳をし始めるあの時間によく似ている。

 次第に、緊張が場を支配する。全員の意識が、一点に集まるか

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「でもお前すぐブランコとか乗るじゃん」

「でもお前すぐブランコとか乗るじゃん」

 アスファルトが湯気を立てそうなくらい暑苦しい八月に正気を保っていられるなんて、狂気そのものだ。
 巨人のため息みたいな、湿り気と熱気を含んだ風がどっしりと身体を撫で回す。何らかの試練なのでは、と思うけれど、悪いことばかりでもない。例えば冷房の快楽、それとシースルーカーディガンが流行ったことくらいには、暑さに感謝状をあげたい。

 夜の公園ってエモくていいよな、なんて今だに「エモい」を選び取るワー

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