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2023年詩

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#桜

57「詩」桜みち

57「詩」桜みち

桜みちと名付けられたこの並木道は
立ち止まって見る事が出来ない

降り注ぐ花びらの中を
走りながら見ることしか出来ない

真っ直ぐに続く道は贈り物のように
桜のリボンがかけられている

上手くいかなかったことも
上手くいったことも
今より良いものに
繋がっていく
きっと

さまざまな門出を
祝いながら
願いをこめて
ほんのひとときだけ輝いて

56「詩」ふわり

56「詩」ふわり

街が淡い紅色のベールを被ると

街ぜんたいが
ふわり
そのまま空に飛んでいけそうな予感がする

少しばかり運が悪くて
損ばかりしてきた

惨めな心が
ふわり
軽くなっていきそうな予感がする

淡い紅色のベールに覆われると
忘れてしまいたい事が
そっと眠りにつく

淡い紅色のベールに覆われると
触れられたくない心の傷が
痛みを無くしていく

暖かな春風が街中に吹き始める
一枚一枚に
祈りを込めながら

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54「詩」桜の花だった

54「詩」桜の花だった

桜の花だった

母に手を引かれ
真新しい水色のワンピースを着て
小学校の門を通り抜けた日
祝福の眼差しを注いでくれたのは
桜の花だった

受験に失敗し
これからの居場所も無く
自信をすっかり失くしていたあの日
大丈夫だよと傍に舞っていたのは
桜の花だった

たくさんの生きたかった命が失われた
あの春

言葉をかければ
さらに傷つけてしまうほど
人々の心は深く傷ついていた

かける言葉さえ見つからな

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53「詩」桜

53「詩」桜

淡く薄紅色に
何も残せなかった思いを
弔うように

また
桜が咲く

たわいないお喋りが
深いところで重く固まった悲しい心を
ほんのひと時だけ軽くしてくれた
あの日にも

また
桜は咲いた

冬を乗り越えた生き物たち
すべてを祝福して

傷ついた大地もそのまま
ふわりと薄紅色に
包み込んでいる

写真 O.Mikio