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【日本全国写真紀行】 50 佐賀県小城市小城

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。


佐賀県小城おぎ市小城


砂糖の道、長崎街道沿いの羊羹ようかんの町

 江戸時代、長崎の出島と北九州の小倉を結んでいた長崎街道。鎖国下にあって、出島は海外との唯一の窓口であり、さまざまな舶来品が出島に荷揚げされた。それらのひとつに砂糖がある。砂糖は、長崎街道を通って京都や大阪、江戸など全国に広がり、それにともなって砂糖を使った菓子づくりの技術も各地に広まっていった。特に長崎街道沿いの町では、その風土にあったお菓子が数多く生まれた。
 例えば、長崎市のカステラ、嬉野市の金華糖、佐賀市の丸ぼうろ、北九州市の金平糖など。その中で、今なお佐賀を代表する菓子であり、全国的知名度を誇るのが小城の羊羹だ。糖化によって外側が白くコーティングされ、シャリっとした歯触りが特徴の羊羹で、全国にも数多くのファンがいる。
 そもそも小城町は江戸時代、小京都ともいわれた城下町で、禅や茶道の文化が発達していたため、羊羹を受け入れる下地があった。また、名水百選に選ばれた清水川や祇園川があるので羊羹づくりに必要な水は存分にあり、羊羹の原料となる小豆やいんげん豆も近郊で大量に作られていた。
 さらに、羊羹は賞味期間が長いため、軍隊の携帯食や保存食として重宝された。小城の近くには軍関連施設のあった佐世保や久留米があり、そうしたところからも小城羊羹は全国的に知られるようになっていった。現在、小城市内には20数軒もの羊羹屋があり、佐賀県の羊羹の購入量は全国平均の2.5倍にもなっている。
 JR小城駅を降り、北へまっすぐ伸びる大通りをゆく。さっそく左側にいくつかの羊羹店が現れた。歩を進めると、下町交差点あたりからまた羊羹店の看板がいくつも見えてくる。このあたりは「羊羹ストリート」と呼ばれているようで、たしかに羊羹店だらけである。そして、さらに先に進んでいくと、小城の中でも老舗羊羹店である村岡総本舗の煉瓦造りの建物が見えてくる。昭和16年に建てられた煉瓦造りの洋館は、現在は羊羹資料館となっており、建物は国の有形文化財に登録されている。
 さて、少し歩き疲れたら最寄りの羊羹店ののれんをくぐってみよう。いくつかの店は、店内で羊羹を食べられるようになっている。商品ケースに並ぶ羊羹の中から気に入ったものを選んで買って、一口大に切り、ゆっくりと口に入れる。砂糖の薄衣をまとった小城羊羹のほんのりとした甘さが、旅の疲れを癒してくれるはずだ。

※『ふるさと再発見の旅 九州1』産業編集センター/編 より一部抜粋


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