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【新刊試し読み】 『にっぽんダークサイド見聞録』|村田らむ

ホームレス、サブカルチャー、アンダーグラウンドなどをテーマに取材を行っているルポライター村田らむさんの著書『にっぽんダークサイド見聞録』が2024年4月15日(月)に発売されたことを記念して本文の一部を公開します。


本書について

誰も知らない、誰も行かないヘンな場所をイラストレーター・ルポライターの村田らむが軽やかに訪れその理由と魅力を解き明かした見聞録。登場するのは富士の樹海やドヤ街、廃墟に珍スポット(韓国、北朝鮮、台湾も少しだけ登場!)。潜入取材、危険地帯取材を得意とする著者が、尽きない好奇心と探究心で繰り広げる、怖いもの見たさの物見遊山。あまりおすすめできない場所満載の異色の観光案内本。


試し読み

〜変わりゆく働く男の街 ドヤ街

大阪のドヤ街・西成
 知り合いの女性に頼まれて、大阪のドヤ街・西成をぐるり案内した。
 西成には年に何度も来ているし、今でもよく泊まる街なので懐かしいという気持ちはわかない。
 ただ場所の説明をしていると、初めて西成に来た頃のことを思い出してじんわりとノスタルジックな気持ちになってきた。
 僕がはじめて西成に行ったのは1999年だった。初の単行本『こじき大百科』の取材のためだった。世間知らずの僕は、それまで西成という存在を全く知らなかった。
 公園などでホームレスに話を聞いている時に、たびたび「なんだお前は西成を知らないのか? それでよくホームレスの取材をしているな」と馬鹿にされて、存在を知った。
「定期的に暴動が起きていた」
「昼間から酒を飲んでいる人が多数いる」
「路上で普通に覚醒剤を売っている」
 などというような、1999年当時としても耳を疑うような話を耳にした。
「これは行かねばなるまい」
 と、すぐに足を運んだのだ。
 新今宮駅で下車。国道43号線を超えると、街の雰囲気がガラッと変わった。小さい窓がたくさん並ぶドヤがずらり建っている。
 たまたま真夏に訪れたのだが、道には半裸の男性がバタバタと倒れていた。オウム真理教の毒ガス事件を思い出して、
「なにか事件でも起きたのか?」
 と思ったが、道行く人は誰も気にしていない。日常風景だった。
 臭いも違う。抽象的な意味ではなく、本当に違う。歩いていると、たまに鼻にツンと刺激臭が刺さる。みんなが適当にそこいらで立ちションをしている。特に高架のトンネルなどからはひどい悪臭が漂っていた。
 倒れる人たちの横を野良犬がウロウロと何匹も歩いていた。当時、野良犬は群れで存在した。警察署の横にある通称四角公園ではホームレスが野良犬を餌付けしていた。
 ホームレスに話を聞いていて、「なんだとこの野郎!!」
 などとホームレスが大きな声を出すと、犬がザッと一斉に立ち上がって「ウー」とうなる。一心同体なのだ。そんな大量の犬に襲われたら絶対に勝てない。正直、暴力団の人と話をするよりも緊張した。
 噂では小学生を嚙んで怪我させたかで、駆除されたと聞いた。今でも他所の地域に比べたら野良犬は多いが、大半がヨボヨボのおとなしい犬だ。
「西成といえば暴動!!」
 みたいなイメージがあるが、西成で頻繁に暴動が起きたのは1960年代〜1970年代の前半までだ。
 
 80年代は起きず、90年、92年に二度起きた。
 取材をした1999年はもう暴動から7年経っているのに暴動で焼け焦げたらしい自動車が放置されていた。
 ちなみに最後に暴動が起きたのは2008年だ。暴動直後に取材に行ったが、道路のレンガが掘り起こされて穴が開いていた。レンガを掘り出して、警察署に投げ込んだ。この跡は今も残っている。対する警察は放水車を使って、暴徒を鎮圧。21世紀に起きた出来事とは思えず、ワクワクする。
 西成の中心地といえば、通称三角公園。文字通り三角の形の公園だ。
 初めて訪れた時は、かなり強いカルチャーショックを受けた。
 公園の角には木材で建てられたボロボロのバラックが並んでいた。数人が集まって上を見上げているので、なんだと思ってみると、街頭テレビだった。街頭テレビなんて、父親の子供時代の思い出話でしか聞いたことがない。離れた場所から、
 「丁か半か!!」
 という威勢のよい声が聞こえてくる。
 ドラム缶を置き、その上でサイコロを振っていた。ドラム缶の周りを取り囲んだ男たちは現金を賭けていた。
 先程の西成警察署から歩いて数分のところで、あからさまなギャンブルをやってるんだからビックリしてしまった。
 世界観としては『仁義なき戦い』っぽい。
 丁半博打をしている公園を出て、近くの路地に入ると、椅子に座った人相の悪い人たちがジロジロとこちらを睨んできた。
 その時は、なんだか分からなかったが、ノミ行為(違法ギャンブル)をしているお店らしい。警察がこないか、文句をつけに来るやつがいないか、見張っているのだ。ハリ屋と呼ばれていた。
 三角公園の横にはシェルターと呼ばれる、ホームレスが無料で泊まれる宿泊施設があった。宿泊施設と言ってもベッドが並んでいるだけの、とても素っ気ない施設だ。
「蚤や南京虫が出てたまらんが、外よりはマシや」
 とホームレスは体をボリボリ搔きながら話していた。
 多くのホームレスは、ホームレスになる前はドヤに住んでいた。
 ドヤというのは、宿(ヤド)の隠語だ。
 ドヤ街というのは、つまりホテル街という意味だ。ただ、ホテルというより簡易宿泊施設という、最低限の設備しかない狭い宿だ。


目次

1章 青木ヶ原樹海 〜迷いの森へ
富士の樹海で三つ巴
樹海の歩き方

2章 ドヤ街 〜変わりゆく働く男の街
大阪のドヤ街・西成
東京のドヤ街・山谷
横浜のドヤ街・寿町
韓国のドヤ街・ヨンドゥンポ
ホームレスの願いの末路

3章 廃墟 〜人が消えた場所をゆく
人のいない村が好き 淡路島
ファンシーなゴーストタウン 清里
韓国・精神病院の廃墟
廃神社探しの副産物 大阪平岡
真鶴の合法廃墟
廃村がなくなる前に 横須賀市田浦

4章 不思議スポット
おもしろミュージアム
 シャレコーベの誘惑 尼崎
 つやま自然のふしぎ館の一番のふしぎ
 イルカとクジラをめぐる冒険 太地町
 KYOTO SAMURAI & NINJA MUSEUM

ビックリ宗教施設
 台湾のなんでもアリなお寺
 巨大像の魅力 東京湾観音
 福井の巨大大仏に会いに行く

ノスタルジック・ツアー
 横浜の天然レトロと人工レトロ
 松戸で団地を思い出す
 あなたの知らない成田
 韓国の長い商店街 馬場洞焼肉横丁

おそろしきトンデモ旅
 東尋坊は伝統と歴史の心霊スポット
 避暑スポット・旧岩渕水門
 北朝鮮里帰りツアー
 毒ガスとウサギの島・大久野島
 立入禁止の先 フクイチ原子炉ツアー


著者紹介

村田らむ むらた・らむ
1972年愛知県名古屋市生まれ。ルポライター、イラストレーター、漫画家。九州産業大学芸術学部卒業。主にホームレス、新興宗教、サブカルチャー、アンダーグラウンドなどをテーマにした取材を行っている。近年はyoutubeやトークイベント、東洋経済オンラインでの執筆など活躍の場を広げている。著書に『樹海考』(晶文社)『危険地帯潜入調査報告書』(丸山ゴンザレスと共著・竹書房)『ホームレス消滅』(幻冬舎)『「非会社員」の知られざる稼ぎ方』(光文社)『人怖』(竹書房)など多数。



にっぽんダークサイド見聞録
【判型】B6変型判
【定価】本体1,430円(税込)
【ISBN】978-4-86311-403-6


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