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第三話 池袋北口(前編)|ドリアン助川「寂しさから290円儲ける方法」
ドリアン助川さんによる、一風変わった「旅」の短編小説連載。
日本中(あるいは世界中?)の孤独な人、苦悩している人に会いに行き、何か一品料理を作ってあげながら人生相談に乗る男の物語。290円は何を意味するのか……? ちょっと不思議な感覚の、旅する「おたすけ料理」小説。
月1回更新予定です。
東京を代表する繁華街のひとつ、池袋。
昭和の頃のこの街の暮らしを、私は高さ一メートルにも満たない視点で覚えています。巨大ターミナル駅の喧噪からはわずかに離れた裏町の、しかしやはりごた混ぜの、人間図鑑をひも解くような暮らしです。
たとえばその場は、銭湯でしょうか。
うちは風呂のないアパート住まいでしたので、私は祖母とともに、「平和湯」という名の銭湯に通いました。脱衣場に置かれた白黒テレビでは、少年のように若い布施明が『霧の摩周湖』を歌っていました。番台横の冷蔵庫には飲み物が並んでいて、たまに祖母がフルーツ牛乳なんてものを買ってくれました。口に心地よく甘く、南国風の香りにうっとりしてしまう飲み物です。私はその瓶を大事に抱え、半裸の大人たちに交じってテレビを眺めていたのです。本当は歌番組ではなくて、『ウルトラQ』を観たいのにと思いながら。
この話が読めるのはこちら↓
\書籍化決定!/
2023年5月23日(火)発売
『寂しさから290円儲ける方法』ドリアン助川/著
ドリアン助川
1962年東京生まれ。
明治学院大学国際学部教授。作家・歌手。
早稲田大学第一文学部東洋哲学科卒。
放送作家等を経て、1990年バンド「叫ぶ詩人の会」を結成。ラジオ深夜放送のパーソナリティとしても活躍。同バンド解散後、2000年からニューヨークに3年間滞在し、日米混成バンドでライブを繰り広げる。帰国後は明川哲也の第二筆名も交え、本格的に執筆を開始。著書多数。小説『あん』は河瀬直美監督により映画化され、2015年カンヌ国際映画祭のオープニングフィルムとなる。また小説はフランス、イギリス、ドイツ、イタリアなど22言語に翻訳されている。2017年、小説『あん』がフランスの「DOMITYS文学賞」と「読者による文庫本大賞」の二冠を得る。2019年、『線量計と奥の細道』が「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞。2023年、フランス語版『あん』がリヨン大学より「翻訳作品賞」を授与される。
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