肉じゃがジェンダーフリー宣言(タクト)

肉じゃが、と聞くと家庭料理の代表格であることを思い出す。
家庭の味、とも呼ばれている。
分からなくもない。
まずは味が地域ごと、ひいては家庭ごとに異なるというのがある。
人文地理的観点で見ると、東日本は豚肉を、西日本は牛肉をメインに使う、といった素材の違いがまずある。
初めて関西(または関東)の人と出会う時に体験するカルチャーショックの一つだ。
味付けも違う。砂糖と醤油とみりんと酒を使ったこってりバージョンもあれば、めんつゆを使って魚介のダシも含ませたバージョンもある。
煮汁がほぼない、粉吹き芋のようなパンチのあるTHEおかずといった肉じゃがもあれば煮汁がしっかり残っている煮物感あふれる肉じゃがもある。
肉じゃがはこんなにもバリエーションが多いのだ。
家庭ごとに肉じゃがの味はある。

あと、煮物、という優しい調理法も家庭の持つ温かないイメージを彷彿させるのも要因に絡んでいる。
炒め物は強火の中で食材たちが雄叫びをあげながら自己研鑽していくイメージがあるけど、煮物は食材たちがちょうどよい湯船につかり、労をねぎらいながら一致団結していくイメージだ。
みんなで柔らかくなってすべてを受け止める煮物。
家庭にもそのイメージが紐づいている、ような気もする。
もちろん釜茹でみたいに強いイメージもあるけれど。

さらに言うと家計に優しいレシピでもあるから家庭料理としての地位を確立した。
じゃがいも、玉ねぎ、ニンジン。
これら3種の神器とも言えるほど、食卓には欠かせない食材。
季節による値段変動を受けることが少なく、さらに言うと野菜の中でも安価の類に入る。
給料日前にカレーが多く出されるのはこれら三種の野菜が安いから気軽に作れる、というのもあり、給料日前になる毎月19日は「カレーの日」とも言われている。
じゃがいも、玉ねぎ、ニンジン。
これらの素材からカレーだったりシチューだったりと様々なバリエーションが展開される。
肉じゃがもその一つだ。
だから、作りやすい。
だから、家庭に出やすい。
だから、よく食べる。
だから、家庭料理としてのイメージが強い。

その流れを受けてか、家庭料理としての範疇を超え「女性が男性をオトす料理」として挙げられるのも肉じゃがだ。
分かる。おふくろの味ってやつだ。

ただ、今の時代なのか、違和感を感じる。

別に女性が作る料理ではないよなぁ、と。
むしろ、こってりに仕上げた肉じゃがは男の料理なイメージすら感じる。
「彼氏に作ってあげたいおかずNo,1」の称号は幻想なのではないだろうか。

甘辛い味付けは日本人が好む味付けだ。
男女は関係ない。
別に彼氏が彼女に作っても良いし、自分に作ってもよいし、なんならおふくろにおふくろの味として肉じゃがを作ってやるのなんかは粋だ。
甘辛さは様々な人を幸せにする。
さらにあのホクホク感。
優しい。尊い。
ただ、がっつりと甘辛い、というところに男性的なところも感じる。
おふくろの味って言っているけど、実際は男勝りなところもある。
そうでなくては家事は務まらない。参りました、世のおふくろさん。

彼氏に作ってあげたいおかず、なんていう狭苦しい範疇にとどめるものではなく、むしろ、肉じゃがはもっと自由であるべき存在なんだと思う。
ジェンダーの枠を超え、様々な人に愛される肉じゃが。

さあ、今こそ、肉じゃがジェンダーフリー宣言を唱える時だ。

PS
更新が遅くなり、本当にごめんなさい。
定期的に更新できるように努力しますが、”ほぼ”月刊なので、気楽に、気長に待ってもらえると幸いです。

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