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悶太の掌編集

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#小説

復活の呪文

 勇者の攻撃は、メタルゼリーの急所にメガヒットすると、56程度のダメージを与えて、そのままメタルゼリーは朽ち果てた。
 この瞬間に勇者達は敵を全滅させた。
 膨大な経験値を得たと同時に盛大なファンファーレが鳴り響く。
 勇者のレベルが上がったのだ。
 自分の肉体に力が漲ってくるのを勇者は感じると、達成感と敵を倒した安堵で息を漏らした。
 剣を鞘に納めながら、ふと勇者は「このファンファーレはいつも誰

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すべてがどうでもよくなる

 世界中でSDY-4976ウィルスがパンデミックを引き起こしたのはつい先月。
 日本では、確認されているだけでも既に十万人もの患者が病院に溢れかえっていた。
 連日流れるニュースを見る限りでは脳の側坐核と呼ばれる部位に直接攻撃してなんちゃらとキャスターがほざいていたが、学の無い僕には理解し難い内容であった。
 極限までやる気を失った人間が、蔓延るようになってしまった外界は、今まで部屋に引きこもって

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霊道

 それは、私が会社の上司に対して「いつか言おうと思っていたんですけど、私の顔じゃなくて胸と喋る暇があったら、奥様と毎晩ハッスルしたら如何でしょうか? それともバイアグラを常飲していても、効き目があるのは勤務時間になってからなんでしょうか?」という捨て台詞を残して早退した時の事だった。
 今思えば、いつもバスに乗って帰る道程だったのを、気晴らしに徒歩にしたのが不味かったんだと思う。

「ここは霊の通

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殺生

 ある日、息子がこんな質問をしてきた。

「何故、人を殺してはいけないのか?」

 私は息子をジッと見つめると、読んでいた新聞を畳んで、息子に向き直った。

「そうか、じゃあ今この瞬間から人を殺しても良い事にしよう」

 そう言うと、私は息子の首に手を掛け、ありったけの力を込めた。
 声も出せず、見る見るうちに顔が鬱血し、もがき苦しむ息子をしばし見つめると、腕の力を緩めた。
 解放され、咳き込む息

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