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66. あれは、やっぱり恋だったと思う。

大好きな先生がいました。
会えると思うだけで嬉しくて、それなのに会えなかった日には帰っちゃいたいくらいがっかりして、少しでも長く一緒にいたかった。交わした1つ1つの会話が大切でとっておきたくて、だからあの頃の私の日記はたわいもない、しょうもない思い出でいっぱいでした。


職員室の、カウンター型のテーブルの向こう。先生たちの机が並ぶ場所には私たちは入ることはできなくて、絶対に超えられない一線があった。それを踏みもせず、また超えたいとも思わず、ただその線越しにしたいくつかのキャッチボールだけでとても幸せだった。

少し大人になってからその職員室の中で働くことになるんだけど、あんなに異世界だと思っていたテーブルの向こうへ、スーツを着てスタスタと入ると、拍子抜けするくらいなんてことなかった。そちらとこちらは地続きで本当は行き来できてしまう場所だったんだと知ったけど、その時にはもうあなたはいなかったから、ただ単に、私だけが大人になった。


それからいくつかの出来事があって、再会して、一緒にご飯を食べた。ごめんね、あの再会は偶然だと言ったけど、本当は私あなたに会いたくてあそこにいたの。もう二度と会えないと思ってたから、もしかしたらと思って。内緒にしててごめんなさい。
誕生日におめでとうと伝えたり、悩みをゆっくり相談したり、そういうあの頃には許されなかったことができるのが、私にとっては本当に贅沢で幸せなことだった。あの頃の私が見たら羨ましくて死ぬかもしれない、と思ってた。


そう、とにかくもう、本当に大好きだった。
それだけのこと。
きっとあなたはこれを読まないだろうと思って、もし読んだとしても二度と会うことはないんだろうと思って、ここにこんなことを書きました。私が1人でずっと大切に抱きしめてるなんて、不公平だと思ったから。


今、あなたのことを思い出しても、寂しいと思うことも、悲しいと思うこともなくなりました。
上京してよかった。あなたを思い出してしまう場所も場面も、東京にはほとんどないから。少し背伸びをするくらいの毎日がものすごい速さで流れていくから。

ただいつかあなたが言ってくれたみたいに、あなたに幸せでいてほしいと心から思います。
どうか、私の知らないところで、ずっとずっとね。

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