もじかき

もじかき

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淡い腕

遠くの方で閉じていくような空を見ながら、ああだから高いところは嫌いなのだ、と思う。はね除けてもはね除けてもやわやわと青いヴェールを垂れ下げてくるようで、この世界には逃げ場がない、と思えてしまう。 丹念な整備を経てなお固い操縦桿を強く引きすぎた手のひらは、春先から夏までの間に引き攣れてこわばり、そちこちに赤く擦れた肉刺(まめ)を作った。装填をしている朋輩などは戦車の遠心力に振り回され、重たい弾に指を挟んで爪を割ったという。花しか知らぬと笑った砲手の手も今や歴戦の荒れ様。戦車道と

    • アキバフクロウのクッピーちゃんがかわいくてアイコン。

      • へいあん

        • 千年バディスタ

          スノーデン第八遊撃部隊からの「カイル」作戦はその遊撃に裂ける人数と価値がその数分の作戦にあるかどうかという至極単純で、そして馬鹿馬鹿しい議論の果てにその機会を逸したまま潰えていった。噂によると敵の蹂躙を埋伏したまま見送らざるを得なかった星がみっつの参謀は、翌日に毒を呷ってその血でもって本部のテントの裾に全軍特攻作戦をしたためた挙句に両手の爪が剥がれるまで石灰石の地面を掻き毟って死んでいたらしい。いかにも知的な顔立ちの男であったと記憶しているが、死顔はおぞましい程であったという

        淡い腕

          あの山を

          あの山を越えていくにはどうすればいいのだろうか あの谷をまっすぐに落ちて底につけばいいのだろうか あの草木を踏みしめて崖を登ればいいのだろうか あの根を掴んで体を引き上げればいいのだろうか あの土に爪を食い込ませて獣のように 土の下にいるみみずなどが 爪の下で裂けていくかもしれない あの山を越えていくには あの星を あの星を 目印にして ただまっすぐに落ちて登ればいいだけだったような気がする あの山を越えていくには 獣のようになって 這い蹲り そ

          あの山を

          ハウザー

          ときに、東の隗史の都より彼の人のもとに来た文化人の言う。「野棘の中に頭骨があります。あの頭骨は賢人のものでしょうか。それとも愚者のものでしょうか」 先生は答えた。「それは今から賢人になる人のものである」 「ではなぜあのような寂しい場所にうち棄てられておりますのでしょうか」文化人は問いかけた。「大いなる墓(注1:大君墓。大きな墓、きらびやかな墓)を築き、その人が賢人となれるようにお祭りするべき人はいなかったのでしょうか」 先生は答えた。「あなたのような人が周りにいなかった

          ハウザー

          短歌とか

          短歌とか

          ユーリ・ケラーネ少将追悼会場

          ユーリ・ケラーネ少将追悼会場

          豪熱マシンガンパンチ

          豪熱マシンガンパンチ

          書房

          それは暗い目をしてわたしを静かに見つめている。 わたしは黙って本を閉じる。 「こんな遅くまでどうしたの」店主の間延びした声が鼓膜を擦る。 わたしには何もない。 おまえ以外何もない。

          トドリ

          あんたの手は白いやね。 そう言ってやると家事もしない悪い手だァねとあの女が答えるので、そんなこと言いたいんじゃねえよ姐さん勘弁してくんなイ、と声をその華奢な肩にしなだれかけるつもりで弁解する。果たしてあの女は肩越しに振り向き、いいのサ、と殊勝なことを言う。 いいんだヨ、本当のことさァね。 でもあんたが帯を締めるとこを見るのがおれァ世界で一チ番好きだよと、声に出す代わりに蚊遣りの線香に火を入れる。姐さん泣いてるのかい。なんでもない振りをして問いかけるとあたしァ涙なんてもん

          トドリ