千年バディスタ

スノーデン第八遊撃部隊からの「カイル」作戦はその遊撃に裂ける人数と価値がその数分の作戦にあるかどうかという至極単純で、そして馬鹿馬鹿しい議論の果てにその機会を逸したまま潰えていった。噂によると敵の蹂躙を埋伏したまま見送らざるを得なかった星がみっつの参謀は、翌日に毒を呷ってその血でもって本部のテントの裾に全軍特攻作戦をしたためた挙句に両手の爪が剥がれるまで石灰石の地面を掻き毟って死んでいたらしい。いかにも知的な顔立ちの男であったと記憶しているが、死顔はおぞましい程であったという。遺骸は殉職とも命令違反ともいかず半端に布に(、これは国旗ですらないただの木綿の布である)包まれたまま野戦病院の隅に片寄せられていたそうだが、その包みが見つからないという。

「あの男め恨みでも残しよるか」

この本部テントは有事の際にあってベルベットで覆いなどしてあるもので、「黒毛皮」なる揶揄がついて回るのだが、その黒毛皮のお偉方は何を血迷ったかこの包みの捜索をかの参謀殿のかつての直属であった小隊に投げ渡した。繰り返すが有事である。明日にも本国に血矢の雨のごとく降らんとしているこの瀬戸際に、開いた口も塞がらぬという体たらく。だが槍玉の小隊長がこの命を謹んで受けたというので動揺は末端にまで広がる。すわ敵前逃亡かと詰め寄られるその一瞬の隙を狙ったかのように、小隊は姿を消したのであった。

いよいよかの小隊の敵前逃亡が騒がれ、黒毛皮のお偉方は酒と美食と議論に踊り、参謀を失った大隊長は退くも戻るもできなくなり、敵軍の攻撃は錐のごとく鋭さを増した。

そのうちに敵軍の本陣が顔を隠した何者かの襲撃によりあとかたもなく焼き払われたという一報が早馬にてもたらされる。

地面までも黒く焦がしえぐり取ったその爆心には、誰あろうかの参謀の遺骸が両手を胸に組んで瞑目してあったという。

特攻作戦は成った。死者213名(うち味方損害7名)。


『とある歴史書より抜粋』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?