【初開催】製造業が新たに創る、ものづくりの“輪” 〜和歌山ものづくり文化祭2022イベントレポ~
和歌山県和歌山市、和歌山城ホールで2022年11月5日、6日の2日間にわたり開催された「和歌山ものづくり文化祭」(以下ものづくり文化祭)に参加してきました!ものづくり文化祭は「ものづくりの未来を創る、体験と学び」をテーマに、和歌山で初めて開催された「ものづくり企業がつくる、体験参加型イベント」です。
この記事では、イベント当日の盛り上がりや、各出展ブースの様子、実行委員長と出展企業へのインタビューをお届けします!
実行委員長はものづくり新聞で以前インタビュ―取材をした、菊井鋏製作所の菊井健一さんです。菊井さんのものづくりインタビューの記事もぜひご覧ください。
和歌山県北部のものづくり企業が集結
ものづくり文化祭には、和歌山県の伝統産業を始めとする様々なジャンルのものづくり企業の方々が参加しました。初開催の今回は、菊井鋏製作所のある和歌山市を中心とした、和歌山県北部からの参加が多くありました。
ものづくり企業が手掛けた会場内のブース
会場を覗くと、統一感のあるデザインのブースが並んでいました。このブースはなんとダンボールで作られているんです!参加企業の寺本紙器株式会社が、ものづくり文化祭のためにこのブースを開発したそう。
寺本紙器株式会社は、ダンボールや台紙などの紙製品の製造を行う会社です。配送時に使う一般的なダンボールだけではなく、お店で商品やカタログを並べるための“紙製什器”も製造しています。
紙製什器の製造をしているものの、このような大きなブース作りに挑戦するのは今回が始めてだったそうです。人の背丈を優に超える大きさでしたが、安定感バッチリでした。会場什器にまでこだわるとは、さすがのものづくり精神です!
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各ブースをまわってみた!
Broom Craft 深海(ふかみ)産業有限会社
70年以上にわたり、棕櫚(しゅろ※¹)のほうきの製作に携わってきた深海産業有限会社。Broom Craftという自社ブランドを立ち上げ、職人が手掛けたほうきやブラシなどを販売しています。
深海産業の本社がある海南(かいなん)市は、たわしやほうきの原材料となる棕櫚の生産が盛んな地域でした。しかし、現在は棕櫚そのものの生産数が減少し、それに伴い棕櫚ほうきの生産も減少してしまいました。さらに、家庭でほうきを使うという文化が希薄になり、作り手、使い手が激減しているという現実があります。
その現実を変えようと立ち上がったのが深海産業。途絶えかけている棕櫚ほうきの作り手を増やす取り組みとして、「職人育成プロジェクト」を始めました。年齢や性別問わず次世代の職人を育てようと試みています。
更に、もう一度棕櫚に親しんでもらい、家庭内で使ってもらうための商品も製造しています。この商品はフライパンにこびり付いた汚れや、シンクの汚れを掃除するためのキッチンブラシです。
他にも、大きさや編み方の異なる商品が多数ラインナップされています。どれも深海産業の職人が手掛けた商品です。
深海産業のブースでは、『キッチンブラシ製作ワークショップ』が開催されていました。ワークショップと聞くと、居ても立っても居られなくなる私は、早速参加してみました!
ブラシ製作で使うのはこの特殊な道具。これらはお店で売っているものではなく、職人さんが自ら手作りしたものだそう。特に右側の手前にある道具は、ある身近な工具を細工して職人さんが作ったものです。どんな工具からできたものかわかりますか?
正解は……プラスドライバーでした!プラスドライバーの向かい合った2つの山を削って、ワイヤーを材料の中に押し込むための道具として使うそうです。
職人さんからとても親切に作り方を教えていただきました。職人さんによると、このブラシのおすすめポイントは自立すること。横に置くタイプのものよりも水切れが早く、衛生的だそう。キッチンブラシという名前ですが、靴洗い用にも使える、万能なブラシです。
ブラシを始め、職人さんが手掛けた魅力的な商品の数々は、Broom Craft公式オンラインショップで見ることができます。
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大彦(だいひこ)株式会社
和歌山は「木の国」とも呼ばれる程、森林資源が豊富な地域です。その豊富な資源を活かし、木材を使った建具や家具、木造住宅などに精通した会社が数多く存在します。
大彦株式会社は、明治初年に創業した和歌山市の工務店です。設計から施工までを社内で行い、手刻み(※²)などの伝統技法の継承に力を入れていて、木材が持つやさしさやぬくもりに直に触れることのできる「ここちよい木の家」を作り続けてきました。
会場の外では大彦に所属する大工による棟上げ(※³)の実演会が行われました。カンカンと高い木の音を出しながら、木槌で木を組み合わせていく様子に、通りかかった人々も、思わず足を止めて見入ります。実演が始まってすぐに、20人ほどの人だかりができるほどの注目ぶりでした。
棟上げに使われた木材は、社内の若手大工がこの日のために加工しました。住宅などに使う木材の手刻み加工は、普段、ベテランの職人さんが担っているため、若手大工が手刻み加工を行うのは初めての試みだったといいます。
また、大彦はものづくり文化祭会場の入場ゲートも製作しました。
来場者が必ず通るこのゲートは安定感のある木製。ものづくりへの期待感と共にくぐります。
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ものづくり×アート 石田延命所
ものづくり文化祭はアートも取り入れています。ライブコラージュを披露するのは、国内外で廃材を使ったアート作品を製作する石田延命所。ものづくり文化祭らしく、各出展企業の工場で使われなくなったタンクやカゴ、看板などを活用しているそうです。
ものづくりが形を変え、新たな分野と融合することで、さらに新しい見方や感動が生まれます。
実行委員長から見たものづくり文化祭 菊井健一さん
ーー初開催にあたって、難しかったところはありますか?
まずは、出店企業が集まるかどうかが一番不安でした。キラリと光るものがある魅力的な会社には、個々に声掛けをしたり、公募をしたりして、20社が集まりました。まずは20社を集めることが大変でしたね。
でも集まった20社はタレントぞろい。来ていただくと伝わるかと思いますが、とても面白い会社ばかりです。出展企業が集まったら勝手にイベントができあがっていきました。
チャットツールなどを使ってコミュニケーションを取り合ったのですが、自分事として動いてくれるのはとても心強かったですね。
ーーイベント当日はとてもにぎわっていましたね!
開場前から既に行列ができていて、開場時には一度に約100人が入場するほどの大盛況でした!
目標は2日間で3000人の集客でしたが、1日目で2707名、2日目で3096名の集客を得ることができ、ばたばたとしている中で、とてもいい場を作ることができたと思います。合計来場者数は目標の約2倍の5803名でした。(菊井さんのイベント振り返りレポートはこちらから)
ーーイベント開催までに起こった印象的な出来事を教えてください!
前日に決起会を開催しました。その時に、『家具のあづま』の東福太郎(あづま ふくたろう)さんが、
「ちょっとみんな聞いてくれ~!」
と言い出したんです。何事かと思ったら、
「11月5日、菊井さんが小学校1年生の娘さんの初めての運動会がある。でもものづくり文化祭のために行かへんって言ってる。みんな、運動会に行かしたっていいよな~!!」
そしたら参加企業の皆さんが、「うおー-!!」って盛り上がったんです。すごい一体感で圧倒されてしまいました。
実は、娘の小学校の運動会はものづくり文化祭の1週間前に予定されていました。でもコロナの影響で延期になり、ものづくり文化祭の1日目に重なってしまったんです。
正直、私は「実行委員長である私がいなかったら、どうやって文化祭を円滑に運営するの?そうするなら前日の夜である今からすぐに段取りしていかなきゃいけないじゃん!」という思いでいっぱいでした。
でも、出展企業の皆さんが大きく背中を押してくれたので、これでは行かない方が怒られるな(笑)と思って、お言葉に甘えて少しだけ運動会に行くことができました。
ーー初開催のイベントだとより心配が大きくなりますね。
1日目の朝、実行委員長の私は、和歌山城ホールで開幕の挨拶を済ませ、1時間ほど娘のかけっこを見に行っていたんです。
参加企業のみなさんのおかげで、初開催のイベントで最初の1時間、実行委員長がいなくても、何事もなくイベントを回すことができました。
ーー菊井さんだけでなく、参加企業の方々も一緒に盛り上がってきた成果ですね!イベントを円滑に運営するために工夫したことはありますか?
今回は人の流れを測定するカメラを導入しました。ゲートを通る人をカメラで認識し、会場に入った人と出た人を把握することで、会場内にいる人数・累計来場者数をリアルタイムで知ることができます。
来場者を計測する面白い仕組みが作れないだろうかと考え、準備をし、深夜まで調整をしてやっと実現したんです!実行委員会がイベント協賛企業と協力して開発しました。
ーーこのシステムなら、屋内の会場でも人数の調整が容易で、なにより、画面を観察するのが楽しそうです(笑)イベント後の来場者や出展企業に期待することは何ですか?
ものづくり文化祭を通して知った産地や工場に、実際に足を運んで欲しいと思っています。
今回は、各出展企業に3m×3mのブースを用意しました。その中で自分たちの思いを表現しようと工夫してくれましたが、全ての思いを伝えるにはだいぶ狭いスペースだと感じているはずです。ただ、実際に工場に行くとなると、各企業や産地の距離が離れているんです。そういうわけで、ものづくり文化祭はRENEWのような、周遊型のイベントにするのは難しいです。
今回、出店企業の産地マップを公式HPに公開しました。ものづくり文化祭のキービジュアルであるオレンジのひし形と緑の円が浮かび上がってくる所もこだわりです。
来場者の方々には、ここで終わりにせずに、今度は産地に会いに行ってほしいなと思います。
ものづくり文化祭が次の一歩に踏み出すためのきっかけになることを願っています。
ーーものづくり文化祭をきっかけに来場者も参加企業も次の一歩を踏み出せるといいですね!
実はもう既に、『家具のあづま』さんで木の板を買い、『岩橋シートワーク』さんで足を買ったらテーブルやいすができるという新しい発見がありました。こんなものづくりのつながりができたということは、必ず意味のある結果を生むと確信しています!
ーー出店企業の方に伝えたいことはなんですか?
「大好き!!!僕はこの人たちが大好き!!!」
好きな人と仕事が出来るってこんなに幸せなんだと噛みしめています。
僕は、誰よりもこの20社の大ファン。
企業同士が離れていることもあり、出展企業の7割がはじめましての状態でした。その状態から一緒にものづくり文化祭を作っていただけることがとても嬉しいし、ものづくり文化祭を通して、出展企業同士も今後に繋がっていくんだろうなと思います。
出展の声掛けの際に、全ての企業を見学させてもらいました。今まで和歌山の他の企業のことを何も知らなかった僕自身も、このイベントを通してものづくりの体験と学びを得られました。
ーー取材の中で、出展企業の方からもそういった話を聞いています。
これだけの人を巻き込めるのはとても素晴らしいことだと思います。でも、私が巻き込んだというよりは、公式ビジュアルのように他の会社の皆さんに、自然と伝播していったみたいで嬉しいですね。
“和歌山のものづくり”でどれだけ楽しんでもらえるか、とても不安に思っていたのですが、蓋を開けてみれば、常に150人くらいの来場者がいる状況を作ることができてほっとしています。
ーーありがとうございます。イベント大成功おめでとうございます!
参加企業から見たものづくり文化祭 岡田織物
和歌山県北部は日本で唯一のパイルファブリック産地としても有名です。旧高野口(こうやぐち)町(現在の橋本市、かつらぎ市、九度山町)で生産されていたことから、「高野口パイル」とも呼ばれています。
パイルとはタオル生地の表面のような輪っか状の生地ですが、和歌山県では、パイル織りを活かして主にエコファーやベロアなどの生地を作っています。衣服や寝具、インテリアなど様々な製品に使われています。産地でエコファーの製造をする株式会社岡田織物さんにお話を伺いました。
ーーものづくり文化祭(もの文)に参加してみて、いかがでしたか?
私たちがイベントに出展するといえば、繊維の展示会だけでした。子供がお客さんとして来ることはありません。ものづくり文化祭では、ワークショップのために子供がたくさん来てくれて、子供たちを相手にするという、会社としては初めての経験でしたね。
ーー当日はどんな様子でしたか?
岡田織物はエコファーボール作りのワークショップを開催しました。10時にイベントがスタートし、16時まで飲み物もご飯も口にしないで動き回るほど忙しかったです。
出来上がったファーボールは最後の仕上げにドライヤーをかけてふわっとさせます。「これでいい?」とドライヤーをかけたものを見せると、
「うわぁぁ!ありがとうございますー!」
って子供たちがとっても喜んでくれたんです。こんなシーン、今まで見たことないぞと感動してしまいました。当日はとても忙しかったですが、子供たちがキラキラの笑顔で喜んでくれたら疲れを忘れてしまいますよね。この笑顔がなかったら、疲れてしまって開始2時間でワークショップの受付を止めていたかもしれません(笑)子供たちって本当にかわいいんですよ!
ーー商品を購入してくれる人とはまた違った反応だったんですね!
針と糸でエコファーを縫い合わせて、私たちスタッフはそのサポートをする。それだけでしたが新鮮で面白かったです。実行委員長の菊井さんにも「良い体験ができてよかった!」と伝えたいですよ。
もともと開催前は、ものづくり文化祭に子供が参加するというイメージが湧かず、なぜ他企業のワークショップは、子供向けに準備するんだろうと疑問に思っていたこともあって、当日は子供の多さにより驚きましたね。「子供の笑顔ってええなあ」と感じたイベントでした。
ーーもし次回開催があったら参加しますか?
また開催するんだったらぜひ参加させてもらいたいです!今度はまた違ったワークショップを考えたいですね。
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【ものメシ!】~もの文出張版~
今回は、「まるイ」の『ラーメン』です。
ものづくり文化祭の会場からほど近いこのお店は、実行委員長の菊井さんにご紹介いただきました!実は、私の1番の大好物はラーメン。期待値が上がります。
ここで言う“ラーメン”は、ズバリ和歌山ラーメン!豚骨醤油ベースのスープはドロッとしていてとても濃厚な味わいです。
ネギの量は通常量で注文しましたが、スープの濃厚さをちょうどよく中和してくれるネギの量は多ければ多いほど良さそう!
筆者は人生で2回目の和歌山ラーメンでしたが、食べれば食べるほどまた食べたくなる和歌山ラーメン。おすすめです!
まるイ 十二番丁店
https://goo.gl/maps/ZnnJdPHVVhYpJnZE8
あとがき
実行委員長の菊井さんとお話して印象に残ったのは、出展企業の方を「本当にすごいんですよー!」と心から尊敬する様子でした。学生である私はまだ社会に出ていませんが、自分の仕事や関わる仲間をリスペクトする姿は、自分の将来の理想像だと感じました。
関西圏をはじめ、全国では2010年代から様々な産業観光イベントが開催され始めています。私たちの身近にある工業製品。機械製だとしてもその機械にすら、すべての製品に誰かの手がかかっています。それぞれの商品に込めた思いやストーリーを作り手と共有するものづくり文化祭のようなイベントは、普段なかなか見つけられないものづくりへのリスペクトを拾うことができる始めの一歩なのではないでしょうか。
菊井さんが「ものづくり文化祭が次の一歩に踏み出すためのきっかけになることを願っている」とおっしゃっていたように、ものづくり新聞やこの記事がそのようなきっかけになれば嬉しいです。
公式HPによると、次回開催予定は2023年12月2日、3日の2日間。(2022年11月現在)今から楽しみです!
(特派員 村山佑月)