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【短編小説】永遠のレールウェイ3~精神科医間宮昌希の決断~

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毎月1日は小説の日という事で、
ついに一巡しました。
本日は1月1日、皆さんは、どんな新年を迎えて、
どんな目標をもって、一年を過ごすのでしょうかね?
私は喪中なので、
新年のあいさつは、いたしませんが、
今年も、よい年になればよいと願う人と、
今年も、良い年にしようと行動する人と、
色々な人何居るでしょう。
私は後者であり続けたいと思っています。

さて、
本日もつたない小説を投稿させていただきます。
精神科医間宮昌希シリーズの完結編です。
様々な気持ちが入り乱れて、
うまくまとまっていませんが、
ご容赦ください。

本日は約8000文字です。
お時間のある時にお読みください。

過去のお話:永遠のレールウェイ1

全て一話完結

過去のお話:永遠のレールウェイ2

全て一話完結

永遠のレールウェイ3

イントロダクション

僕には異能がある。
それは人の感情や想い、病気による寿命などが
色で見えてしまう事だ。
僕は精神科医であるという立場上
今から死のうとしている人間の色が、
見えてしまう。あゆみもその一人だった。
仙台へ帰る新幹線の中で出会ってしまった、
あゆみをどうしても無視する事ができず。
僕はあゆみを助ける形になった。
その時あゆみは、
濃紺とグレーの交った色をしていた。
なぜ僕が、あゆみを助けたのか。
無視する事ができなかったのか。
それはあゆみと出会う半年前の事、
自分の患者を死なせてしまった、
懺悔の意味もあったのかもしれない。
ただその時、八木山橋から飛んだ里穂の色は
緑色をしていた。
僕は死ぬまではしないだろうと思っていた。
里穂の遺体と対面した時、
愕然として、自分は異能に頼っている。
患者の心の声に向き合っていない。
そう思っていた時、自己嫌悪に陥っていた時に
あゆみに出会った。
そして、あゆみとドライブ中に亜寿沙を見つけた。
亜寿沙里穂と同じ緑色をしていたのに、
死に場所を探してさまよう女性だった。
僕は半分現実を受け止められず愕然としていたが、
あゆみのてきぱきとした行動や毅然とした態度に
逆に心を少し救われたのだった。

はやぶさ

亜寿沙を救ってから、2か月程が経っていた。
カウンセリングを続けながら、
あゆみの店でも働いていた。
彼女を八木山橋で見つけた時、
一瞬、里穂がそこに居る感覚になった。
僕は自分の異能と向き合うために、
亜寿沙の母親に合う事にした。
主治医として、
そして異能とどう付き合うか決めるために。

僕は仙台駅12番ホームで、
新函館北斗行のはやぶさ1号を待っていた。

「先生と旅行なんて、嬉しい」

あゆみが嬉しそうに言った。
僕はあゆみと新幹線のホームで待ち合わせていた。

「もうすぐクリスマスなのに店はいいのか?」

「大丈夫、私ママ卒業して、千恵美ちゃんにママ
 してもらってるから、それに黒服の哲君が、
 しっかり店を回してくれているので、
 オーナーとしては安心よ」

あゆみが、店のママをチーママの千恵美
引き継いだのは知っていた。
あゆみの店は会員制クラブのようだが、
僕はいつも黒服の哲也が通してくれたので、
特になんの違和感も持っていなかった。

「先生ちゃんと約束覚えててくれたのね
 私、札幌はじめて、
 とっても嬉しい、すごく幸せ」

あゆみは妙にはしゃいでいるように感じたが、
特に気にはしなかった。
12月23日、24日、
札幌市内のホテルで学会が開催さされることになった。
僕は学会の合間に亜寿沙の母親に合う事を、
あゆみに話した。
あゆみとの約束もあったが、クリスマスに近いので
ダメもとであゆみを札幌に誘った。
あゆみは嬉しそうに二つ返事で承諾した。

12番ホームへはやぶさ1号が滑り込んできた。
僕はあゆみのスーツケースをもって
9号車へ乗り込んだ。
7番AとBへ着くと
あゆみを窓へ座らせた。

「先生・・グリーン車なの」

あゆみは覗き込むように僕をみてきた

「グリーン車くらい乗るよ、
 グランクラスは無理だけど」


そう言って僕が微笑むと
あゆみは僕の右腕に自分の左腕を絡ませて、
嬉しそうに笑った。
僕はあゆみがいつもしている腕時計を
していない事に気がついた。

はやぶさ1号はホームから出発していた。
あゆみの楽しそうな顔を見ると、
腕時計の事を聞けなくなる。
僕はあゆみを見つめた。
初めて会った時とは別人のように
あゆみの色は黄色と水色が混じっていた。
初めて会った時は濃紺とダークグレーで、
死に場所を探しているかのように見えた。
今はそれが改善し、さらに、
時々緑色のラインが、脈打つように見えた。
あゆみは安定している。
僕は思い切って、腕時計の事を聞く事にした。

「いつもしている時計、今日はしてないね」

僕の問いかけに

「あ・・先生気づいちゃった、あの時計は捨てたは」

「だって、シャネルだよ、けっこう高いと思うけど」

僕は意外な答えに少し声を荒げた。
あゆみはだまって僕をみつめた
そして甘えるように僕の右手に頬をよせながら
話し出した。

「あのシャネル、ボーイフレンドはね、
 私の最後まで残った情のようなものなの
 先生は全部知っているから話すけど
 私の最初のパパに、お店を任される時もらたのよ
 いろいろあったけど、私の人生の一部でもあったから
 中古ショップやネットで売るのも違うと思って
 ごみとして捨てちゃった。全然環境には優しくないけど
 私がそうしたかっらから、そうできるように
 先生が変えてくれたから、未練はないわ」

あゆみは淡々と話した。
人や物にとらわれない事、すてたり、切り離す事は、
精神世界でも時には大事だとわかっていても、
なかなかそれはできない。

僕が最初に見たあゆみのシャネルは、
彼女自身だったのかもしれないと思った。

僕は黙って、彼女を抱き寄せ
肩を抱いた。
あゆみの顔が僕の胸あたりにあった。
香水の銘柄はわからないが、
ほのかに甘い香りがした。
あゆみの中で緑色の光が少し強く
なったように思えた。

僕らは新函館北斗駅から、特急北斗9号で
札幌に向かった。

告白

札幌駅からタクシーでホテルへ向かった。
歩けない距離ではないが、そこそこの長旅だった。
あゆみにも疲れの表情がうかがえた。
ホテルにチェックインした僕らは部屋に入った。

「先生、ツインだけど、キングサイズのベッド
 6人くらいで寝れるわね」

あゆみはやはり少しはしゃいでいるようだった。

「せっかくの旅行だからね、君とゆっくり過ごしたいから
 奮発したよ、まぁ僕は学会があるから、昼間は一緒に
 居れないけど、ゆっくり過ごすといい」

僕はそう言うと、亜寿沙の母親に電話をかけた。


亜寿沙の実家は、札幌市郊外のアパートだった。
あゆみは少し疲れていそうだったが、
一緒に亜寿沙の母親に合う事にした。

4階建てのアパートの3階に母親は一人で住んでいた。
僕が間宮クリニックの名刺を出すと
母親はその名刺をじっとみていた。
あゆみの店が高級クラブで、いかがわしい店ではない事
店内の様子や、最近の亜寿沙の写真も
iPadで見せて、安心して任せてもらうようにお願いした。
亜寿沙の母親は、黙って僕の言葉に耳を傾け
iPadの亜寿沙の写真を見ていた。

顔を上げた母親は泣いていた。
涙をぽたぽたと流して泣いていた。
やがて、かっぽう着のポケットから
一通の手紙を取り出して、話し出した。

「あの子が無事なら、生きているのなら
 それだけで十分です。
 どうか、これからもあの子を助けてやってください。
 亜寿沙から手紙が来たんです。
 初めてもらう手紙です。
 先生やママさんのことが書かれています。
 元気になって、毎日が楽しいと書いてありました。
 お店での写真も入ってました。
 先生たちが嘘を言っていない事。あの子が元気でいる事、
 よくわかりました。
 わざわざこんな所まで来ていただき、ありがとうございます」

亜寿沙の母親は、声を絞り出すように言った。
亜寿沙はもう22歳だから、未成年ではない。
けれど主治医として、抗うつ薬の処方だどもしている。
一応母親には知っていて欲しかった。

父親は10歳の時にいなくなったと、
亜寿沙からは聞いていた。
なので、その辺のことは、できるだけふれないように、
母親と話した。
あゆみは女同士、お店での話、
プライベートでもよく食事にいったり
ショッピングに行ったりする事等を話していた。

僕はあゆみと話す母親をみていた。
母親もまた亜寿沙と同じ緑色をしていた。
もしかすると、僕が認識でき色には特異点があるのかも
しれないと思った。
亜寿沙は母親からの遺伝かもしれないが
里穂の母親は普通に感情や体調が色で見えた。
この辺の解明と証明は難しいだとう思った。
これが解明できれば、僕の能力を含めて
ノーベル賞ものかもしれないとは思うが
それは、はかない夢だろうと感じていた。

二人は女どうし、楽しそうに会話が弾んでいた。
亜寿沙の母親ももう泣いてはいなかった。

ホテルに戻ってきた僕らは、
ホテルのレストランで食事をした。
外へ行くことも考えたが、28階の個室を予約して。
二人でゆっくりとワインを飲んだ。
札幌市内の夜景がとても綺麗だった。

部屋に戻ると、
あゆみがすぐにトイレにかけこんだ
僕は窓際から、札幌の夜景を見ていた。
気が付くとあゆみが後ろにたていた
そして、僕を背中から抱きしめた。

「先生、だまって聞いて、私、子供ができた
 先生以外の人とは、してないから
 信じてもらえないかもしれないけど
 先生ごめんなさい、面倒くさい女になっちゃって」


そう言うと、僕の背中にしがみついたまま、
泣き出した。
僕はゆっくりをあゆみに向き合った。
そしてあゆみをソファーに座らせた。

あゆみは僕を見つめながら

「先生、あかちゃん、おろしたほうがいいよね」

僕はあゆみの横に座り、彼女の肩をだいた。
あゆみが今まで、強いられてきたことを思い出した。
それはカウンセリングの時、聞きだしたものだった。
いままでのパトロンや付き合った人達は、
あゆみに子供ができると、おろせと言ったようだ。
単なる快楽や、
性のはけ口として思っていなかったのかもしれない。
それだけあゆみは綺麗だし、セクシーでもあった。
ただ、そのたびにあゆみは苦しい思いで、病院に行った。
僕が初めてあゆみをカウンセリングルームへ連れていった時
私は人殺しですと泣き喚いたのを思い出していた。

僕はあゆみに向き直った。

「もう苦しまなくていいよ、あゆみに罪を押し付けるつもりはないし
 その子に罪を背負わせるつむりもない」

「でも先生、わたしのほうが、すぐにおばあちゃんになっちゃう
 わたしのほうが先に逝っちゃうかもしれない、
 それにこの子に罪はないの、悪いのは私」

「そんなことはないよ、君はいつまでも綺麗だ、
 そして、だれが何時逝くかなんて、だれにもわからない
 それは決まっていない運命だ。君はこの子のために
 精一杯いきなきゃならない。僕も精一杯生きるから、
 一緒に、同じ時間を共有しよう。」

あゆみ
はだまった僕にしがみついていた。
僕の膝に1つまた1つ濡れたシミが広がっていくのが見えた。
僕はさらに続けた。

「生まれてこようとしている子が、親より先に死ぬのは
 その子の罪として扱われる。仏教の世界の話かもしれないけど
 だから、もうその子に、親よりも先に死ぬという
 罪を背負わせることはしたくない、
 いままで罪を背負って逝ってしまった、君の子供たちのためにもね」

「先生」

そういうと、あゆみの涙は洪水になり
僕にしがみついた手には更に力が入っていた。
その右手には妊娠検査薬が握られていた。
ずっと体調は悪かったのかもしれない。
何度も何度も嘘であってほしいと、
検査薬を持ち歩いていたのかもしれない。
そんなあゆみの気持ちを考えると、
切なさで胸がいっぱいになった。
そして涙するあゆみをずっと抱きしめていたいとも
思った。

あゆみに時々脈のような緑色が交るのは
生まれてこようとする命のシグナルなのかもしれないと
僕は思った。

決断

夕べはそのまま抱き合って寝た。
僕はあゆみを起こさないようにベッドから抜け出して
学会に行く準備をした。
本来の目的は学会だが、僕もあゆみとの小旅行を
楽しみにしていた。

15:00過ぎ、スマホに着信があった。
ホテルの電話番号だった。
学会のセッションはまだ続いていたが、
僕は会場を抜け出して電話に出た。

「間宮さまの携帯電話でしょうか?」

「はい間宮はわたしです」

「奥様が救急車で搬送されましたので
 お知らせしようと思い、お電話しました」

フロントの女性は救急病院の場所を教えてくれた。

「タクシーをお願いします。すぐロビーへ降ります」

僕はフロントの女性に伝えると
エレベーターに乗った。
学会の会場は宿泊しているホテルで開催されていた。
あゆみは気を使って僕には連絡をしなかったのだろう。

ロビーに降りて、入り口まで走った。
ベルボーイが、僕の慌てぶりを見て

「間宮さまですか」

と聞いてきたので僕はうなづいた。

「タクシーはあちらです」

そう言ってタクシーを案内してくれた。

「ありがとう」

僕はベルボーイに礼を言うと、タクシーに乗り込み
病院の住所を伝えた。

高齢、そして何度かの中絶経験は
そのまま流産という計算式が導きだされていた。
いやな予感がして、心を抉り取っていくかのようだった。
とにかく何も考えないように、冷静を保とうと、
必死だった。

病院の受付で救急搬送された関係者である事を
告げた。
あゆみには会えず、医師から話があると言うので
待合室でまっていた。

「西城あゆみさんの関係者の方こちらへどうぞ」

そう言われて診察室に通された。

「間宮昌希さんで間違いないですか?」

僕は

「はい、間違いありません」

そう言って運転免許証を差し出した。

白衣を着ていたのは、女医さんだった。
セミロングの髪を一本に束ねた、少し小柄な先生だった。
僕の差し出した運転免許証をみて、名前と住所を確認した。
カルテを見ながら、目が何かを探している。
そんな感じだった。

やがて、僕の正面に向き合うと

「私は神崎と申します。救急搬送された西城さんを
 診察させていただきました。本来は親族の方以外には
 お話しないのですが、お二人でご旅行されていると
 西城さんからお伺いしたので、間宮さんにお話します。」

一瞬の間があった。
神崎先生が、何を言い出すのか
最悪の事態を、僕は想定していた。

「おめでとうございます。妊娠2か月ですね
 おそらくもうすぐ3か月になるくらいだと思います」

僕は意外な言葉に少し拍子抜けして

「ありがとうございます」

と、気の抜けた返事をした。
神崎先生はさらにつづけた。

「ただし、喜んでばかりもいられません。
 西城さんは流産しかかっています。
 このまま仙台へお返しする事はできません。
 西城さんは45歳です。高齢出産になります。
 このまま移動すると流産する可能性が高くなります。
 おそらくですが、お子さんを生むには最後のチャンスかと
 思います。」

神崎医師は淡々と話をした。

「神崎先生、では入院ということですか?」

僕の問いに

「書類は後で看護師の話を聞いて記入してください
 西城さんはまだ集中処置室です。容体は落ち着いていますので
 大丈夫だと思います。面会できるのは、明日になります」

そう言うと少し微笑んだように見えた。

僕は入院の書類と必要になりそうなものを
病院の売店で購入して、看護師さんに渡した。
病院に着いた時は気が付かなかったが、
膝が震え、しばらく病院のロビーから立ち上がる事が
出来なかった。

あゆみと面会できたのは、次の日の夜だった。
僕は特別に宿泊の許可をもらって、つきそう事にした。

僕はあゆみが入院する個室のドアをノックして
中に入っていった。

「大丈夫かい」

僕が話かけると、あゆみは困った顔をした。
あゆみはなにが言葉を探しているようだった。
僕はあゆみの顔をじっと見ていた。

しばらくの沈黙、1分が10分に感じる時間だった。

「ごめんなさい、迷惑かけちゃって」

「迷惑だとは思っていないよ、むしろその逆だ
 絶対に忘れない夜になった」

「せっかくのイブなのに、先生はお仕事なのに
 私は・・」

あゆみの色が少し陰り出した、その反面
緑色の鼓動は激しく反応しているように見えた。

僕はあゆみのベッドの左側にこしかけた。
あゆみをじっと見つめていた。

「今日の夜の事は絶対に忘れないと言っただろ
 メリークリスマス、プリースマリーミー
 僕と結婚してください」

そう言うと、僕は用意していた結婚指輪を
あゆみにさしだした。

あゆみは何も言わず。ただじっとぼくを見ていた。
大きな瞳からまた大粒の涙がひとつ、ふたつとこぼれ落ちた。

「私、泣いてばっかり」

そういうと黙ってうなづいた。

僕はダイヤモンドのエンゲージリングを
あゆみの薬指にはめた。
あゆみは時々、ダイヤをかざしてみていた。

「小さい石でごめん、でも、
 その反面僕の気持ちは大きいから
 誰よりも君を愛していると誓うよ」

「絶対にわすれない夜になった、先生ありがとう
 ありがとう、とっても嬉しい」

そう言ってまた泣いていた。

「でも先生・・」

僕はあゆみの言葉を遮った。

「札幌に誘った時、はじめからこうするつもりだった
 28階のレストランの個室で渡すか、部屋で渡すか
 迷ってはいたけどね、あゆみから子供ができたと聞いた時
 やっぱり運命なんだと感じたよ、これからもよろしく」

あゆみは黙って、僕の手を取り
手の甲にキスをした。

クリスマスの日、一旦僕はクリニックに戻った。
あゆみの入院が一週間、僕はできるかぎり付き添うために
間宮クリニックの患者さん達の様子を、
電話で聞いた。処方が切れる患者には、処方を郵送した。

その間に、あゆみも黒服の哲也と打ち合わせたり、
iPadで哲也に直接指示をだしたりした。
哲也と千恵美ママと相談して、あゆみは長期休暇中という
事にした。
常連さんは必ずあゆみの事をきくだろうから、
口裏を合わせるために、
iPad上のあゆみと3人で対応を決めた。
あゆみは正直に僕との話、子供ができた事、プロポーズされた事を
二人に話した。
哲也も千恵美ママも驚かず。逆に祝福の言葉が返ってきた。
哲也は、

「先生とママ、できてると思ってました」

そう言って笑った。千恵美ママは、

「あゆみママ、先生、おめでとうございます」

そう言って少し涙ぐんだ。
千恵美ママは銀座であゆみと一緒に働いていた。
あゆみが銀座から引っ張った人材だった。
たぶん僕と同じ35歳のはずだ。
あゆみとの通信が切れると

「私も先生ねらってたんですよ」

そういって舌をだした。
あゆみと初めてあった時のようなショートカットが似合う
女性だった。

永遠のレールウェイ

僕が札幌に戻れたのは、31日の夕方だった。
帰省客のラッシュは落ち着き、お正月を待つ市内は
いつもより静かに感じた。
あゆみの病室にいくと、顔色はよさそうだった。

「あかちゃん順調だって」

僕をみると、あゆみは嬉しそうに言った。
今まで諦めなければならなかった、
自分の分身を、生める嬉しさ、そんな感情が
感じられた。
あゆみの黄色と水色も、子供の緑色の脈も
順調にそして綺麗にくっきりと見えた。
生命力をその色から感じる事ができた。

「店は、哲也と千恵美ママが仕切っているから大丈夫
 なんにも心配せずにゆっくり休んでという伝言だ」


僕はあゆみに伝えた。
あゆみはダイヤの指輪を眺めながら

「あの二人に任せておけば安心よね」

そう言って微笑んだ。

師走はスピードが速い
一時退院できる人は31日には、一旦家に帰っていた。
病院もいつもより静かに感じた。
僕はまた特別に宿泊の許可をもらった。

「先生、お酒もないし、消灯時間あるから
 紅白もみれないけど、いいの」

あゆみは僕の心配をしてくれているようだった。
僕は寝返りも打てない程のエキストラベッド上で
あゆみを見上げていた。

「大丈夫、この一瞬なんて、ほんのちっぽけなものさ
 すぐに次の一瞬がくるから、酒も、女も、紅白も
 今日はいらないよ」

「先生、私、女なんて言ってない・・」

そういって口を尖らせた。

「やっと冗談が言えるようになったね
 良かった。じゃーあゆみ、良いお年を」

そう言って、僕は病室の灯りを消した。

朝の7時過ぎ
病室の窓を朝陽が照らし出した。
僕はエキストラベッドから起き上がり
カーテンを少し開けた。
夕べから降り積もった雪に、青い空と
太陽の光が、まばゆいばかりのコントラストを
演出していた。
後ろから

「おはよう、あけましておめでとう」

あゆみの声に振り返り

「あけまして、おめでとう、今年もよろしく」

そう言って、あゆみのおでこにキスをした。

僕はこの記念すべき日を一枚の写真に収めた。
スマホの自撮りで、あゆみと病院から見える
雪景色と青空と太陽を映した。

「1月4日には退院できるって、神崎先生が言ってたよ
 そしたら一緒に帰ろう。帰ったら西方寺で
 安産祈願をしてもらいに行こう」

「はい・・」

あゆみが嬉しそうに言った。

8月には子供が生まれる。
多分生まれてくる子は緑色を纏っているだろう。
それが特異点なのかわからないが、
3人の生活を楽しめるような人生でありたいと願う
そうあるように、行動していこうと思う。
僕は異能と言う特殊能力を授かった、僕自身が
特異点なのかもしれない。
ならば、できる限りの人を救うう事が、
僕の使命であると、生まれてくる子供に教えられたきがした。

父が逝く時

「お前の人生を生きろ」

そう言っていたのを思い出していた。

僕は朝陽に手を合わせ、今年一年の無事を願った。

終わり

編集後記

2021年6月、父が他界したので、
喪中です。
なので、リアルで「あけましておめでとう」
というのはちょっと厳しいかと思い、
小説の中で新年を迎える事にしました。

間宮先生が、
腹をくくって生きる事を決めたように、
私も、
今年一年歯を食いしばって前に進んでいきます。
みなさまどうか応援してください。

今年もできる限り、1日は小説の日として
つたない小説をアップしていこうと思います。

精神科医間宮昌希シリーズは一旦終了です。
また何か浮かんだら描きたいと思います。
今回、このシリーズで描きたかったのは、
命の重さなのかもしれません。
唯一の親孝行は親よりも先に死なない事
それだけでいい。
そう言われたように思います。
ただ、混沌とした世の中
そうもいきませんよね。
中学生の時に、生と死について
私が詩を書いてました。
当時は紙しかないので、
いまはその記録は消失していますが、
ハッキリと記録に刻まれている事があります。

それは、
そんなにもがいても、どんなに生きたいと願っても
どうにもならない人がいる。
その反面、自ら命の火を消してしまう人がいる。
なんで神様は命の火のチェンジを許してくれないのだろう
世の中理不尽だ・・・
的な詩を書いていた記憶があります。

今回、精神科医間宮昌希シリーズを書きながら
そんな思いにとらわれていました。
全ての人を救えるわけではありませんが、
仏教の世界では、この世の修行を逃げたり、
放棄したりした人は、次の世界で更なる試練が与えられる
と聞いた記憶があります。
そう、私が見てきたわけでもありません
経験したわけでもありません。
けれど、私のココロにすーーと入り込んできた
考えです。
命より重いものはない。泥をなめても、地をはいつくばっても
生きているというのは、生かされているという事だと
私は思っています。

だから、あゆみがしてきた、せざるを得なかった
命の火を消す行為、命のを宿す可能性のある行為について
外からやんわりと伝えたかったのかもしれません。

あとがきまで読んでいただき、
ありがとうございます。

さて次の小説ネタ探さなきゃだわ!(笑)

本日も最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
みなさまに感謝いたします。
一年間、元気で、快活に生きられるよう
精一杯もがいて、悩んでまいりましょう。
私で相談にのれることはいくらでものります。
どうか、健やかな一年を思い描いて
ご自愛ください。


サポートいただいた方へ、いつもありがとうございます。あなたが幸せになるよう最大限の応援をさせていただきます。