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【短編小説】君の季節

#君の季節 #鈴木英人 #ポルシェ356Aスピードスター #短編小説 #ハーフフィクション

毎月1日は小説の日という事で、今月も投稿です。
先月気合いを入れ過ぎて、4話全部出してしまったので
今月は短めに投稿です。
締め切りに追われる作家さんの気持ちを
少しだけ味わっています。
本当の作家さんは、胃がキリキリしながら
何万字という活字と戦っているのでしょうけどね(笑)

今回は約3,000字です。

どうかお時間のある時にお読みください。


君の季節

空港

搭乗案内を待っていた。
福岡行きJAS300便。
国内線の飛行機は初体験だった。
結局搭乗の2時間前には、空港の駐車場に
シトロエンを止めていた。

緊張、不安、
その時携帯電話がなった。

「Risaだよん・・・・」

聞きなれた声が、電波の向こうから届けられた。

「今から行くから、空港でまっとけよ」
「うん、気をつけて来てね」


取りとめのない話を20分ほどして、
電話を切った。

銀の翼は、青い空へ向けて飛び立った。
福岡空港
Risaとの対面・・・・・

「よう」
「こんにちは」
「いこうか」


こんな調子で、地下鉄駅へ向かう・・・・

「私エスカレーターって苦手なんだ」
「え・・・・・・」
「じゃ、階段で降りようーーー」


福岡空港にかぎらず、
地下鉄は地下にある、とうぜん下へもぐる手段は
エレベータ、エスカレータ、階段となるわけだ。

選択はエスカレータか階段。

「でもトモ君疲れてるから、エスカレーターでいいよ」

鈴木英人

二人は、小倉に向かっていた。

「鈴木英人のサイン会があるから、こない」

Risaに誘われたのは一週間前
最初は断ったものの、次の日には

「やっぱ行くよ」

そう返事をしていた。
自分でも不思議な行動だった。

1200キロも離れた場所に、
自分がいるなんて感覚はなかった。

小倉そごう
鈴木英人サイン会の会場だった。
さっそく展示会場へ急ぐ。

「こんにちは、ヤマモトです。
 娘をよろしく、ちゃんとつれて帰ってくださいね!」


Risaの知り合いである、
画廊のヤマモトさんが、挨拶に来た。
そして、画廊の社長さんも、Risaに挨拶していった。
僕はヤマモトさんの言葉の意味が分からず、
すっと考えていた。
その時、

「これよ、これ」


Risaが笑顔で見せてくれたのは、

<PORSCHE 356 SPEEDSTER>

Risaが買った鈴木英人のリトグラフである。

※これは№2です。初期版は約70万円程です。<リアルコメント>


「おおきいでしょ」

とヤマモトさん。

たしかに、格段に大きいサイズである。。。。。。
ポルシェとの初対面であった。

「英人、今休んでるから、もう少ししたら来て」

とヤマモトさん
そごうの中をぶらぶらすることになった。

サイン会が始まっていた、初めて見る鈴木英人・・・
感動を覚えながら
Risaは自分のポルシェにサインをしてもらっていた。

「記念にリトグラフどうですか」

とヤマモトさん

「えーーーそうですねーー」
「今日なら英人のサイン入れてもらえますよ」
「気に入った絵はありませんか?」


だんだんその気になってきた気持ちと、
いやいや、いかんいかん衝動買いは・・・
そんな葛藤の中で絵を見ていた。

「気になる絵はこれですね・・・・」

そこには

<YOUR SEASON>君の季節

がかけられていた。

「これはねぇ・・シリアル6番なんですよ」
「え・・・・?」


鈴木英人の絵はリトグラフで、
そこにはシリアルが打たれている。

当然シリアルが若い番号ほど、線や色は奇麗なはずである。
その番号が6/250

「今日は6月6日だから・・・もう一つ6ってのもいいかなーー」

「このリトグラフはね、予約されていたんですが、
 さっきキャンセルの連絡が入って」

「ラッキーですよ、6番、一桁のシリアルなんて
 なんてめったに出ませんから」


そんな会話を交わしながら、ローンの交渉がはじまった。

「ほんとに買うの?」

とRisa・・・・・・

「でも、買うような気はしてたけど・・・」
「666って不吉な番号だけど、僕は好きだなーーー」


鈴木英人を前に
お土産のワインを手渡した。
本人と話をするのは緊張で心臓が飛び出そうだった。

「<YOUR SEASON>今日買ったの???」
「はい、今買いました」
「それは、ありがとう」


「お名前は???」

僕は自分の名前を言った。

「何か書いてほしいことある???」
「英人さんの好きなこと書いてください」


鈴木英人は、サインと僕の名前とヤシの木を書いてくれた。

「写真とりましょう」

画廊のスタッフの人が言った。

「せっかくだから、彼女も入って・・・」

英人、Risa、僕、そして・・・君の季節
ポラロイドを見るたび、あの日を思い出す。

新しい季節

666から新しい人生は始まっていた。

Risaと指輪を見ていた。
浴衣を買いに天神町まで来ていたのだが、
指輪を見ることになった。

店員さんが

「結婚指輪ですか」

二人は顔を見合わせた

「ちがいます」

なぜか二人声が揃ったが、
店員さんも苦笑いしていた。

「これなんかはいかがでしょうか?」

店員さんが勧めてくれる指輪をはめてみる。
店員さんが、指輪の説明をしてくれる。

僕とRisaは2、3デザインのよさそうなものを
指にはめてみて、一番しっくりした、
ウエーブの付いた指輪を買った。

「これ、曲がってるね」

Risaがぽつりつぶやく

「これは、そういうデザインなんだよ」

地下鉄の駅で二人揃いの指輪を眺めながら、
二人で笑いあった。

そして、その日はもう帰る日だった。

恋人になっても、
縛られたり縛ったりという関係はいやだった。
だから、

「これからのことはわからないから、
 遠距離になっちゃうし、僕に地元で
 彼女ができちゃったりしてな」


ほんの冗談のつもりだった。

そんな言葉にRisaは悲しい顔をして

「別れ際に言わなくてもいいじゃん」

と返した。

二人沈黙のまま、右手の指輪を眺めていた。

母が背中を押した

Risaと離れてから、1ヶ月と数十日後
母が急逝した。

運命のいたずらか、神様のきまぐれか・・・
その時、友人のナベさんが言った。

「二つは一緒に手に入らないって、お前いつも言ってたろ
 なんかさー、彼女を手に入れたら、
 お母さんを亡くすなんてすげーー不思議だな、
 だから彼女は、お前にとって、本物なのかもな」


僕も感じていたことだった。

何かを手に入れる時、
何かをあきらめなければならない。
ほしい物は、すべて手に入らない。
だけど、ひとつあきらめ、
二つ、三つと少しづつ夢はかなうのかもしれない。

僕は母への想いを断ち切れずに泣いた。
腰が立たないほど泣いていた。

母を旅行に連れて行くつもりだった。
Risaの実家は九州だから

「私はどこへもいったことがない」

そんな口癖の母を、
旅行がてら、Risaの両親と逢わせたいと思っていた。

しかし、それは叶わぬ夢と消えた。

結婚の承認

Risaの両親に門前払いをされる覚悟で、
結婚の承諾をもらいに再び空を飛んだ。
自分をぶつける。
そんな覚悟で、Risaの両親と対面した。

Risaの母は、なにも遠くに行かなくてもと
半ば怪訝な感じで対応してきた。
Risaの父は、黙ってうなづく感じだった。

親には親の複雑な思いがあるのだろうと思った。

僕はただ頭を下げて、結婚承諾を得た。

背中を押したのは、母の死と、菩提寺の住職だった。

「お前が結婚しない事を、
 どれだけお母さんが心配していたか、
 喪中など関係ない、一番の供養はお前が結婚する事だ」

そう言って背中を押された。

その夜2人で祝杯をあげた。
福岡の湿った夏の風が二人にからみついてきた。
今はそれも心地よく感じた。

今、アパートのリビングには
<PORSCHE 356 SPEEDSTER>
<YOUR SEASON>
2枚の絵が飾られている。

娘が、2枚の絵をみあげながら
振返り

「こんなおうちにすみたいね」

そう言って笑った。

おわり

本日も最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
皆様に感謝いたします。

二人がどんな人生を歩んでいくのか
また書いていきたいと思います。

補足ですが、私の家にも
鈴木英人画伯の「君の季節」が飾られています。
何時かは、こんな洋館で海を見ながら暮らせたら
最高に幸せだと思っています。

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