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幽体離脱

僕は彼女を真っすぐ見る。

彼女は目を合わさない。

それでも僕は、目をそらさず彼女をちゃんと見ていた。

彼女とは学生の頃からの付き合いで、社会人になっても関係は続いていた。
腐れ縁とも言えなくない長い付き合いの中で、改めて確認し合うことはないけれど、僕は彼女が好きだということは変わらなかったし、彼女も同じ気持ちだということは変わっていない、と思っていた。

だから僕は嘘をつく彼女も、これまで目をそらさずちゃんと見ていた。

でも今の僕は、そんな君を見ている自分、を見ている。

そうだな、
「君と向き合って話を聞いている僕の背中」を僕が見ている
とでもいえばしっくりくるか。
簡単にいえば、"幽体離脱" をしているような感覚だ。

君の話は聞いている、変わらず正面からね。
でもそれを受け止める自分は、第三者のようにそこにいる。

僕がどんな顔をしていたのかも、僕自身わからない。
なにせ、"幽体離脱" して、僕じゃない僕でそこに居たから。

君の顔も見えていない、のは君が僕を見ようとしないから。


君は息を吐くように嘘をつく。

風の様に軽く、川の流れの様に・・・
なんて、そんな文学的な綺麗さはそこにはない。
あるのは不誠実、という事実だけだ。

嘘は少しの事実を含ませると、あたかも真実であるかのように聞こえる。
が、残念だけど君の嘘は隠したいことが多すぎて、そのテクニックが話を支離滅裂にしている。だから嘘をついていること、隠したいことの推測が安易にできる。

それがわかるのもきっと、僕が ”幽体離脱” をしているおかげだ。

君に真っ向で向き合い、真に受けていた以前までの僕なら、簡単に騙せていただろうね。君が向き合おうとしないから、僕は僕なりの向き合い方を考えたんだ。


「別れよう」とは言わない。その代わりにつく君の嘘は「関係を続ける為の嘘」と思っていたからこれまで受け止めていた。

けど気づいた。

僕と向き合っていないのは物理的な行動だけではなく、僕との関係性そのものに向き合っていないんだってことを。

嘘をつくのも、ただの自己防衛反応みたいなものだ。

僕との関係を守るわけでも、壊すわけでもない。
心は此処にあらず、だ。

そうか、なら僕もそうするよ。
だから僕は ”幽体離脱” した状態で君と向き合う。

今はまだ戻れる状態だけど、いつか僕は完全に
”未練たらしく繋がる「君が好きな僕」” から離れる。

そう、そんな「僕」から僕を切り離して、死んでしまった「僕」から君へ別れを言ってあげるよ。

「僕」の声が聞こえるなら、ね・・・

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