札幌のあの子 中編2

僕は一目惚れをしたその子に夢中になり、彼女との別れを決めた。

浅草の喫茶店で別れないかと言った。彼女は全てを悟ったような落ち着いた表情で「どうして?」と聞いてきた。好きな人ができたことを伝えた。「私もう30だよ」という彼女の言葉が辛かった。さらにこう続けた。「都会の絵の具に染まっちゃった?」彼女は木綿のハンカチーフが好きだった。僕が東京に行くことになり最後に宇都宮で2人でカラオケに行ったとき、彼女は僕に木綿のハンカチーフを歌ってくれた。この状況の中、この歌詞を質問で投げかけられる彼女の抒情的な感性と強さの前に、僕はただただ情けなく、申し訳ない気持ちだった。

彼女は分かったと言い、僕たちは別れることになった。喫茶店を出て歩いている時、僕は彼女と並んで歩くことはせずに彼女の前を歩いた。彼女は後ろをついてきた。

彼女は今日宇都宮に帰る。上野駅に移動した。上野に着くと彼女は僕に、最後に私に化粧品を買って欲しいと言ってきた。僕はその年、彼女に誕生日プレゼントをあげていなく、自分の分もいらないと言っていたのだった。その分として化粧品を買って欲しいというのだ。

近くのマツモトキヨシに入りファンデーションを見た。「私に似合う色のファンデーションを選んで」と言われた。僕はいろんな色のテスト用ファンデーションを彼女の頬に塗り、どれが彼女に一番似合うのか試した。塗ったそばからファンデーションがぐちゃぐちゃになり、全然色が確かめられない。つられて僕も目が潤んでくる。別れる女性が一番綺麗になれるファンデーションを選ぶ時、男はどういう顔をしていれば良いんだろうと、僕はずっと考えていた。

オレンジ色のファンデーションに決め、レジに行こうとすると、彼女はやっぱり私が自分で買うと言いだした。俺が買うよと言っても聞かず、彼女はレジでお金を支払った。

その後どうやって駅でお別れしたのか覚えていない。ただ、その後夜勤のアルバイトがあったけれど、仲の良い先輩に連絡して会い、彼女と別れたことを聞いてもらった。そして先輩に連れて行ってもらった中華屋で僕は大泣きしながらレバニラ定食を食べた。

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