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【1分小説】雨女ちゃんの涙


もうずっと雨が降り続いている。


雨が降り過ぎて
世界のほとんどが沈んで海になってしまった。


少し前までは山だった所も
今では小さな島になった。


私は、そんな小さな島にひとりぼっちで泣いていた。


降り続く雨の原因は、わかっていた。



私が雨女のせいだ。
泣けば泣くほど雨が降る。


もうずっと泣いている。
何が悲しいのかは忘れてしまった。
涙の理由なんてなんだっていい。
世界がどうなろうが関係ない。


とにかく誰か私の涙を止めてほしい。





ある日、世界で一番大金持ちの王様が
偉そうに葉巻を咥えて
立派な船に乗り私の島にやってきた。


「お嬢さん、何が悲しいかわからないが
お金や宝石、ドレスをたくさん持ってきたから泣くのを止めてくれないか?」


家来の人達が
財宝をたくさん船から下ろしてきた。


私は「いらない」と大泣きした。

雨が強くなって家来の人達が足を滑らせて転んだ。
その拍子に、家来の人達が持っていた
たくさんの財宝が海に投げ出されて沈んでいった。


王様は、財宝を失ったショックで
葉巻じゃなくて指をチュパチュパしゃぶりながら放心状態で帰っていった。







しばらくして、世界的ヒーローの
ムキムキスーパーマン男が得意気な顔で空を飛んでやってきた。


「少女よ。なぜ泣き続ける。
あそこで泳ぐ大きなサメが怖いのか?

ならば、この私が退治してやろう!」


スーパーマン男は、のんびり泳いでいた
巨大なサメさんを刺激して喧嘩を売った。


サメさんはスーパーマン男を食べようとするけど華麗に避けられてスーパーパワーで
こてんぱんにやられてしまった。


スーパーマン男が
トドメの一撃をしようとした瞬間
私はサメさんが可哀想で大泣きした。


土砂降りの雨が降って
スーパーマン男のガチガチに髪を固めていたポマードが溶けて
髪型がくるくるパーマになった。



スーパーマン男は顔を真っ赤にして恥ずかしがって帰っていった。








それから、しばらくした後
世界中で話題のサーカス団が潜水艦に乗って怪しい笑顔でやってきた。


「そこのキュートな淑女ちゃん、もう安心しなさい!

今から飛びっきりすごいエンターテイメントをお見せしますよ!


なんと!イルカに跨がりながら
ロボットダンスと落語を同時にしつつ
フラッシュ暗算をしてみせます!」


私は、わけのわからないものを目の前で見せられて混乱して大泣きした。


滝のような雨が降った。
サーカス団は全く気にせずフラッシュ暗算を成功してみせて満足して帰っていった。







それからは、しばらく誰も来なくなった。




お願い誰か
私の悲しみを止めて…








すると、ボロボロの小さなイカダに乗った
少年が島に上陸してきた。


「ツユミちゃん、遅くなってごめん!」




特別な才能も取り柄もない
友達のテルくんだった。




「ツユミちゃんが泣いてるって聞いて
急いで向かったんだけど
空も飛べないしお金も無いから
イカダを自分で作ってたら時間がかかっちゃったよ。」


テルくんは申し訳なさそうに言った。






「テルくん、その右手どうしたの?」



「ああ、これかい?

途中でイカダが壊れちゃったから
超強力接着剤で修理しようとしたら
間違えて指につけちゃって、ずっとOKサインのまま取れなくなっちゃったんだよ。


仕方ないから僕はずっとOKサインの指のまま生きていくことにするよ。」


私はクスッと笑った。

少し小雨になった。






「テルくん、そのお尻どうしたの?」



「ああ、これかい?

途中で巨大なサメが、なぜかカンカンに怒ってて襲ってきたんだ。

僕は必死でイカダを漕いで逃げ回ったんだけどズボンをかじられて、お尻丸出しになってしまったんだよ。

ツユミちゃんに会うために、せっかくオシャレしてきたのにあんまりだ…」


私は、アハハって笑った。

雨はやんでくもり空になった。








「テルくん、その鼻どうしたの?」



「ああ、これかい?

途中で変なサーカス団に会って
ヘンテコなエンターテイメントを長時間見させられたんだ。

大雨の中、見てたから風邪引いちゃって
特大鼻水が1秒ごとに右、左と交互に垂れるようになっちゃったんだよ。


ツユミちゃんが悲しんでるのに
こんな鼻で来てごめんね…」



私は腹を抱えて笑った。

空は晴れ渡って満開の青空が広がった。







「ツユミちゃんが泣いてる時は
小さい頃から、いつもこれが欲しい時だったよね。

いろんなことがあった旅だったけど
これだけは絶対に海に落とさないように
しっかり握り続けてきたよ。」


テルくんは
左手からグシャグシャの包み紙を渡してきた。


中を開けると
大好物のサバの味噌煮味のアメ玉が入ってた。


私はアメ玉を口に入れると

嬉しくて美味しくて

泣きながら笑った。




私達の頭上には大きな大きな虹が架かって、お尻丸出しでOKサインをしたテルくんが鼻水垂らして「よかった!」と笑っていた。







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