④孤高のモンキー125にのって 四国の路次、八幡浜へとたどり着く
道すがら、雨雲が次第に山あいの上空に湧き出してきた。そしてまもなく、頭上に雲が覆い被さるように空が曇りだした。ふと気づくと、耳に雨粒がはたく音が聞こえ始めた。一粒、また一粒と雨足が次第に増していく。そしてあっという間に、こちらは容赦ない力強い雨に見舞われることになってしまった。
これでは走り続けるのは危険だ。そう判断し、急いで近くの道の駅に避難した。駐車場に避難した際、荷物からレインスーツを取り出して着替えた。道の駅の軒下で休憩する。そこからは、濁流となった渓流の流れが見渡せた。しばらく雨脚は収まる気配がなかった。
しかし、こうした雨風にも免れないのが、ツーリングの旅の一部だろう。時に過酷な状況に出くわし、それでもバイクの旅を続けることで、かえって充実感を得ることがある。そんな思いを新たにしながら、しばらくの間その場で雨宿りをする。幸い長居することなく、やがて雨は小降りになった。再び出発できる兆しを感じたのだ。
モンキー125に火を入れ直し、八幡浜に向けて進路を定める。ルートは県道を行き、のちに国道に合流する予定だ。雨に打たれながらの運転は決して楽ではないが、防水性に優れたライディンググローブとレインウェアがあれば、それほど心配する必要はない。
高知を出発してから既に3時間が経っていた。予定していたルートを少し外れてしまい、本来なら八幡浜に着いている時間だったはずが、いまだ目的地に至る前の道を走り続けていた。
「どうも宇和島の方に向かってしまったらしい」
ガソリンスタンドで給油をしながら、そう呟いた。Googleマップの画面を覗き込むと、確かに現在地は宇和島に近づいている。間違えて別のルートに進んでしまったようだ。仕方ない、ここから北上して八幡浜に向かうしかない。
そうして気づけば、出発時の予定が1時間以上遅れてしまった。まさか道を見失うなんて、油断もいいところだった。しかし後悔する前に、道に迷うことも旅の醍醐味だと開き直る。こうしてルートを外れ、思いもよらぬ風景に出会えるのも、ツーリングならではの楽しみ方なのかもしれない。
ガソリンスタンドで給油しているときだった。そこの従業員の男性に声をかけられたのだ。
「どちらから来たんですか?」
聞き覚えのない地名が書かれたナンバープレートに、男性は違和感を覚えたのだろう。
「千葉からです。四国と九州をツーリングしているんです」
そう答えると、男性は少し驚いた表情を浮かべた。
「そうですか。モンキー125で四国一周は大変でしょうね。気をつけて走ってくださいよ」
男性はそう言って、心配そうに頭を下げた。里人ならではの気遣いに、私も感謝の気持ちでいっぱいになった。
旅に出ると、こうした声かけをよく受ける。よそ者を不思議そうに見る視線からは、時に道案内やアドバイスをいただくことも多い。一人旅だけど、そんな出会いに支えられているのだと実感する。
道の駅でトイレ休憩を取ろうとしたときも、同じようなことがあった。近くにいた年配のバイク乗りに呼び止められたのだ。
「モンキー125は最近、盗難に遭いやすいみたいですよ。気をつけた方がいいですよ」
なるほど、モンキー125は軽量で取り回しが楽なため、盗難に遭いやすいのも理解できる。東京でも時折、そんな話を耳にする。悪意を持つ者がどこに潜んでいるかは分からない。だからこそ、そうした忠告に感謝しつつ、改めて防犯意識を高めることが大切だと思った。
一人旅をしていると、知らない人からこうした気遣いの言葉をかけられることが増える。まったく縁もゆかりもない他人同士なのに、なぜこんなにも温かい言葉が届くのか。こうした出会いこそが旅の魅力だと、心の底から感じた。
道に迷い、時間が遅れてしまったものの、八幡浜に着いたのは夕方だった。ホテルでのチェックインを済ませ、早速夕食を探すことにした。
商店街を歩き回りながら、飲食店を探したが、どこもかしこも閉まっていた。おそらくはコロナの影響で営業時間が変更されたのだろうか。最近は全国的に商店街の店舗が次々と閉店している。八幡浜もその例外ではなかった。しかし、お腹は空いている。食事を取れる店を見つけねばならない。
商店街を行ったり来たりしているうちに、ついに「食事可能」と思われる店が視界に入った。そこは小さな居酒屋だった。入口に並べられた皿やメニューを見ると、この店なら大丈夫そうだと感じた。
「いらっしゃいませ」
小さな店内に入ると、柔和な女将に迎えられた。人当たりの良さそうな人だ。カウンター越しに話しながら、八幡浜のことを聞いてみた。
「ここは港町だから、新鮮な魚がいっぱいなんですよ。でも八幡浜と言えば、やっぱりアジですね」
「アジなんですか。有名ですものね」
「そうなんです。八幡浜ではアジが一番有名。市場に行けば、朝どれの新鮮なアジがたくさん並んでますよ」
女将はそう言ってにこやかに笑った。やっぱり八幡浜に来てアジを食べないわけにはいかないらしい。
そこで女将におすすめのアジ料理を聞くと、「アジのたたき」と即答された。それがこの町の名物料理なのだそうだ。
注文を受けた女将は、慌ただしく細々と動き回り、薄暗い奥の厨房から皿を運んできた。そこには、艶やかでみずみずしい赤身のアジが大皿に盛られていた。香りを存分に楽しむように、皿に顔を近づけてみると、フレッシュな魚介の風味が鼻孔をくすぐった。
一口目を頬張ると、その鮮度と味わいに心から感動した。柔らかくもしっとりとした肉質に、上品な脂が口中に広がる。日本人の「alma mater」ともいえるアジの身が、この八幡浜の海で最高のコンディションで捕獲されていることが分かった。都会では決して口にできない鮮度と、豊潤な味わいに酔いしれてしまう。
女将に「本当に美味しいですね」と賛辞を送ると、彼女は嬉しそうに頷いた。
「やっぱり地元の物は新鮮なものですわ。外からおいでの方に喜んでいただけて良かった。」
地産地消の良さを改めて実感する。旅に出て味わえる最高の喜びは、その土地ならではの食材を楽しめることだろう。都会の贅沢とは異なる、郷土の珍味に舌鼓を打つ。食という形で、その場所の文化を肌で感じ取ることができる。
そんな有意義な一夜を過ごした後は、ホテルに戻りそのままベッドに倒れこんだ。
窓の外を見れば、すっかり闇に包まれた街並みと、遠くに広がる海の黒銀が目に入った。月明かりに照らされた水面が、細かく光り輝いている。そこは旅人にとって憧れの地でもあり、今まさに私は夢見た場所に存在していた。
今日の走行距離はかなり長かった。そして、迷い道を経験したことで、充実感を感じた。道に迷うこともツーリングの楽しみの一つだ。予定に縛られず、未知の道を楽しむ。時には寄り道もする。そうした自由さが、モンキー125ツーリングの真髄なのかもしれない。
少し酔ったせいもあって、心地よい疲労感に包まれて、気づけば私は眠りに落ちていた。
<筆者 自己紹介>
私は現在40代後半に差し掛かり、子供たちも徐々に自立し、自分の時間を満喫できるようになりました。免許を取得したのは30代後半でしたが、仕事と家庭のバランスで中々バイクに乗る機会がありませんでした。しかし、最近になってようやく自分の時間を楽しむ余裕ができました。大型バイクは維持にお金がかかりますが、手軽に乗れて維持費も抑えられるバイクを模索していました。そこで私が出会ったのがモンキー125です。このブログでは、私のモンキー125にまつわるエピソード、ツーリングの思い出、カスタムの詳細など、私自身が体験したことを共有していきます。
それに加え、私のYouTubeチャンネルでもいくつかの動画を公開していますので、ぜひ一度ご覧いただければと思います。🏍️✨
モンキー125の走行シーンと独特のサウンド、そしてツーリング体験を、まるで現地にいるかのようにお楽しみいただけます!ぜひご覧ください👇
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