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とある港町

石のアパートに挟まれた狭い路地
早朝の清浄な空気
光はまだ届かず
濃い影が落とされる

どん突きに
海の青が見える
ここからは眩しさにはほど遠い

彼方のきらめきと
足元のざわめきの
両方に引っ張られるように
一つしかない体は
もどかしげに歩を進める

背の高い扉
勇壮な細工を誇るファサードは
経年や排気ガスのために煤け
それが何とも言えぬ
この街のルーズさを代弁している

きまぐれに通りを曲がり
小さな広場に出くわす
濃い色をして
強烈な野性味を発する
不揃いで、おしゃべりな野菜たち
乱雑に積み上げられたとうもろこしの山
威勢のいい香菜たちは
分厚い束からはみ出してしまいそう

辺りはまだ
一日の始まりの静けさと
涼しげな空気を含んでいる

テラス先にそっと置かれるカプチーノ
昼食用のタジン鍋を
一つずつ磨いて回る給仕

乗り付けてきた肉屋のトラック
開いた扉からは
吊り下げられた
骨が剥き出しの獣の肉

あれやこれやを手に取って
品定めをする品のいい老夫婦

この広場で買い物をして
コーヒーを飲んで休憩をして
昼食のタジンに舌鼓を打って…
ここで一日過ごしてみたい気もするけれど
ここはこの街のほんの一部
ここには魅惑的な場所が多すぎる

雑多にモノが入り乱れ
人々が往き来し
誰も彼もが顔見知り
彼らの日常と
せわしさの間を
すり抜けて歩く
匿名(アノニム)な開放感

濃い影が落とされた
狭い路地、とある路地は
もうじき終わる

その先には
目が眩み
頭がクラクラするような
海と空

親密と解放
この街を彩る
まばゆいまでのコントラスト

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