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お前のいない乾杯

「はじめの奴、死んだって。自殺だって。」

ちょうど10年前の8月に高校の同級生の圭輔から電話があった。

「は?何言ってんの?」

「いや、まじで。さっき、はじめのお袋さんから電話あった。」

圭輔とはじめは小学校からの付き合いで仲が良かった。はじめのお袋さんが圭輔に電話したのも当然納得できる。

「じゃ俺はまだ何人かに連絡しないといけないから。また電話する。」

とだけ言い残して圭輔との電話は終わった。

生まれて初めての友達の死。

頭が真っ白になる。ってのはこんな事だろう。俺とはじめは高校の2年からの付き合いだった。はじめは面白くてバカばっかりやっていて学校中の有名人だった。出会った頃はその人気が気に入らなくて好きなやつじゃなかったが、2年で同じクラスになってからは毎日つるむようになった。

タバコを教わったのもはじめだった。当時流行っていたジョーカーをいつも吸っていた。タバコを吸わない友達に、

「これ吸うと、体がいい匂いになるんだよ!」

と言って、ドルチェ&ガッバーナの香水を染み込ませたタバコを無理やり吸わせてたが、これが臭いのなんの。あの香水を嗅ぐ度に高校の頃を思いだす。

そんな事ばっかりやってたあいつでも、周りは笑顔になっていた。そんな不思議な魅力をもつ男。

高校を卒業してから

俺は大学に進学。はじめは浪人生となる。1人暮らしのアパートによく遊びに来てくれた。しかも毎回連れてくる女の子が違う・・・何故だか羽振りが良さそうだった。

一度ふざけて風呂場に閉じ込められて、隙間からストックのリンスを大量に浴室内にぶち撒かれた事があった。あの時はさすがにキレた。一体何しでかすかわからないやつ。でも不良って訳じゃない。

はじめの羽振りの良さが会う度に変わっていった。清原並みのドデカいダイヤのピアスにブルガリの時計。どうやら何かのビジネスを始めたようだった。

「お前今なにやってんの?」

「IT系の会社やってるんだ!」

具体的にどんな仕事かは聞かなかったが、いつにも増して勢いがある感じで大学生の俺からしたら少し羨ましかった。数ヶ月に1度会う程度だったが、渋谷・上野らへんで一緒に遊んでいた。

大学卒業後

俺は大学を卒業し、就職した。はじめは相変わらず何かのビジネスを続けている様子だった。

会う機会もめっきり減ったが、たまに電話はくれた。ただ、前と違い勢いというのが感じられず、お金に困っている様子だった。何度かお金を貸したこともある。きちんと返ってはきていたが、周りにも同じように金を借りていたようだ。また、変な投資話をするようになってきた。しかも数十万程度ならわかるが1千万を超えるような投資額の話をするようになった。

もちろんそんな金は無いから話に付き合わなかったが、そんな電話ばっかりになってきたので俺も段々と距離を置くようになった。

1人欠けた同窓会

間も無くして電話が鳴った。

「はじめの奴、死んだって。自殺だって。」

告別式に見た久々のはじめの顔。全然変わってないな。本当に死んでるのかこいつは?お得意のイタズラか?

奇しくも彼の告別式がクラスメイトとの同窓会になってしまった。ご両親からは遺体を発見した時の様子だったり、最近の様子などを聞く事ができた。心の整理がついているのか、思った以上にご両親も明るく振る舞ってくれた。


告別式の帰り、仲の良かった3人で一緒に飲みに行った。はじめは酒は弱かったが飲むのは好きだった。

「あいつの分まで飲むか!」

「天国まで届くように、これにするか?」

名称未設定のデザイン-3

ビールタワー 多分5Lはあったきがする。

「乾杯っ!!」

「お前のいない乾杯だけど、俺らが死んだらそっちに行くからまた乾杯しような!」




最後のメール

最後に余談だが、はじめからのメールがまだgmailに残っている。多分俺がイラスト制作の仕事を頼んだ時のメールだと思う。

件名:お見積もりの件

「お世話になります ○○(俺)様   例のお見積もりを送らせていただきます。」

RE:お見積もりの件

「何がお世話になりますだw 早く終わらせてこっちに合流しろよ。頼むからドルガバの香水だけはつけないでくれよ?」

RE:RE:お見積もりの件

「恐れ入りますがドルガバの香水は既についています。」

RE:RE:RE:お見積もりの件

「わかったから早く!」


もう続かないREだけど、この時期になるとはじめを思い出す。よく死んでも心に生き続けるって言うけど、思い出すってことはやっぱり心の中で生き続けてるんだなって改めて思う。

今晩は久々にはじめと乾杯だ!



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