卯月晦日 旅の記憶その3 長万部から函館
長万部からは特急北斗で一路函館へ。一度乗ってみたい列車のひとつでしたので、この機会を逃すわけにはいきません。北斗12号なので、車両は261系です。
空いているので自由席でも問題なく好きな席に座れます(JR北海道には大問題だろうが……)。座席はゆったりしているし、車窓は広いし、言う事ありません。
ここまでとは景色が一転し、視界を遮るものがない海沿いの旅が始まりました。雲が多かったこともあり海は昏く、荒涼とした海岸線が続きます。これもまた北国の一風景ですね。
ですが、しばらくすると進行方向に「猛々しい二上山」とでも言いたくなる駒ケ岳の雄姿が見えてきました。
北海道の山々は実に個性的です。なだらかな山が優しく続く大和の景色とも、峻厳な連山のアルプスともまったく趣が異なります。一つ一つが、己のありようを堂々と主張しているというか……。比べるとずいぶん柔和な三輪山や畝傍山にさえ神を見た古代ヤマトの人々が羊蹄山や駒ケ岳を見たら、どう思ったことでしょうね。
大沼公園駅が近づいてくると、再び視界は緑に覆われていきます。そして、水芭蕉の群生も再び。また写真を撮るのも忘れて見惚れていました。次回、機会があれば大沼公園は絶対に行きたいな。
七時間半ほどの列車の旅を終え函館に到着しました。
大変満足な鉄旅でした。鉄旅のいいところは、流れる景色をぼんやり眺めながら脳裏に浮かぶよしなしごとと戯れている時間を持てることでしょう。日常ではなかなか持てない、贅沢なひと時です。
とはいえ、鉄旅はこれでおしまいではありません。函館でも大事な乗りミッションがあります。
そう、市電。チンチン電車大好きな私にとって、市電のある街はそれだけで訪問価値があるのです。
函館市電はレトロな車両が魅力です。ワクワクしながら乗り込みました。お客さんがたくさんいたので内装を撮るのは控えましたが、昭和、それも30や40年代からそのまま残っていそうな車内告知など、グッとくるポイント多数でした。
しかも、終点に近づけば近づくほど、街並みがどんどん非日常性を帯びていきます。こんな電車に毎日乗れるなんて、函館市民がうらやましすぎる……。
宿泊先に荷物だけ置いて、さっそく街の散策に出ました。
陳腐な言い回しで恐縮ですが、街全体が映画セットのよう。横浜や神戸よりも異国情緒が強いですね。最高です。
あいにくガスが出たので函館山には登りませんでしたが、ケーブル駅付近からでも港の美しい夜景は望めました。これほど物語を感じる街は稀なのではないでしょうか。アジア系の観光客が多い理由、わかります。
夕飯はお化け仲間の朝宮運河さんに紹介していただいた「西園」のネギ塩ラーメンでした。
朝宮さんいわく、こちらの塩ラーメンこそが「The 函館塩ラーメン」なのだとか。
恥ずかしながら、サッポロ一番塩ラーメン以外の塩ラーメンを食べるのはこれが初めてだったので、予想以上のあっさり味、でも輪郭はしっかりしたスープの味に「これが塩ラーメンというものなのか!」と蒙を啓かれた思いがしたものでした。長旅の疲れを癒やすには最高の一杯です。ほんと、おいしかった。ごちそうさまでした。
そういえば前回の北海道訪問時は札幌で初めて味噌ラーメンを食べて、「これが味噌ラーメンというものなのか!」と天啓を得た思いがしたものだったわけで、やっぱりご当地ラーメンはご当地で食べるべきですね。学びました。
さて、腹ごしらえが済んだらお仕事です。遊んでばっかりというわけにもいきませんのでね(笑)。函館市文学館で、ちょこちょこっと資料渉猟などをして函館の文学事情をお勉強です。色々発見がありました。
資料館を出た後はしばし海沿いを散歩し、これまた別の函館出身の方に紹介いただいたハセガワストアやラッキーピエロをひやかしてお土産物を買ったり、写真を撮ったりして函館の夜を満喫しました。
できればバーで一杯……なんてのもしたかったけど、旅の初日に無理もできぬと宿に戻り、シャワーを浴びてすっきりした後、持ち帰りピロシキとビールで晩酌です。ピロシキはロープウェイ乗り場のすぐ近くにあるまるたま小屋で、ビールはハセガワストアで購入しました。
これも函館でしか味わえない組み合わせですね。
ピロシキは揚げではなく焼きです。化調など一切不使用、素朴だけれども滋味たっぷりの本格派でした。きっとロシアのお母さんの味はこんななのでしょうね。函館はロシアと関係深い土地です。時勢に思いを馳せつつ、おいしくいただきました。
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