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「子育て世代」もサポートする 「全世代型社会保障」とは

急激な少子化という「国難」にどう立ち向かうのか?

近年、保育の受け皿整備や幼児教育・保育の無償化など様々な「少子化対策」が実施されていますが、少子化の大きな流れを変えるまでには至っていません。
日本の2021年の出生数は811,622人で、2018年の918,400人から「たった三年で10万人以上」も減っています。さらに2022年は80万人を割り込む見込みです。
これはコロナ禍の影響が大きいものの「危機的な現実」を目の当たりにすると、今進んでいる「急激な少子化」が深刻な「国難」であることを再認識せざるを得ません。

※資料1:2023/1/19 こども政策の強化に関する関係府省会議(第1回) 
内閣官房資料5 p.3の図表を一部加工

このような中、岸田内閣は2023年6月に策定される「骨太方針2023」に「こども・子育て政策」としてこども予算の倍増への道筋を盛り込む方針を示しました。
少子化の原因は「お金」だけではありませんが、「子育てにはお金がかかるから」という「金銭的な理由」で子供を産むのをあきらめる方々を、今度こそ救うことが出来ればと筆者も強く思う次第です。

ところで、なぜ日本の少子化政策は今までうまくいかなかったのでしょう。要因の一つに「安定財源が確保できていなかった」ことが挙げられます。「児童手当」を例に取っても、財源不足で手当の金額や所得制限などが二転三転したことは皆さんご存じの通りです。

「財源」のないプランは結局「空想(妄想?)」で終わってしまいます。さらに少子化政策は「一時しのぎのバラマキ」ではダメなのです。出産から子育て期間中の途切れのない「恒久的な施策」には「恒久的な財源」が必要です。

本当に今度こそ「こども・子育て政策」で急激な少子化にブレーキをかけるにはどうすれば良いのか。ここ数ヶ月は超短期決戦の「歴史の転換点」であることをしっかり認識して、「大衆迎合的な報道」や「ネガティブキャンペーン」に惑わされてはいけません。制度の「理念や目的と財源」を統合した正しい議論を見守っていく必要があります。今までこれらがバラバラに議論された結果、少子化対策は迷走を重ねてきたのではないでしょうか。

「日々忙しくてニュース内容のチェックなんかいちいちできないよ」などと言わずに、今回は本当に重要な数ヶ月になりそうなので、まずは現状の財源候補とその理念について一緒に確認していきましょう。
 

有力な財源候補とは

2023/1/25の施政方針演説で岸田首相は「年齢・性別を問わず、皆が参加する、従来とは次元の異なる少子化対策を実現したい」と述べています。その財源は「消費税」が最有力候補のはずですが、現段階では「当面触れる事は考えていない」としています。

では、消費税以外の安定財源として何が考えられるのか?

そこで「全世代型社会保障」が候補として挙がっています。これは、有識者による「全世代型社会保障構築会議」で「報告書 ※資料2」が2022/12/26にまとめられているものです。

社会保障は高い財源調達力を持つ有力な安定財源です。事実、我が国では1998年から社会保険料収入が国税収入を上回っています。

しかし「社会保障って高齢者向けのイメージが強いのだけれども・・」という方が大半ではないでしょうか。

今までは、団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となって「高齢者人口が急速に増加する」2025年までの危機的状況を乗り切るために「社会保障と税の一体改革」を行ってきました(これは消費税率を10%に上げることで一旦決着を得ました)。

そして今回この「構築会議」では、「今後高齢者人口は緩やかな増加になる一方、生産年齢人口はさらに減少が加速する」2040年までを見据えて検討しています(さらに2040年以降は高齢者も減っていきます)。

まず我々はこの「2025年と2040年の課題は変わって来ている」事をしっかり認識する必要があります。

「全世代型社会保障」の理念とは

「全世代型社会保障」の理念は以下となります。

年齢に関わりなく、全ての国民が、その能力に応じて負担し、支え合うことによって、それぞれの人生のステージに応じて、必要な保障がバランスよく提供されることを目指すものである。」

全世代型社会保障構築会議 報告書より

つまり「社会保障を支えるのは若い世代であり、高齢者は支えられる世代である」という固定観念を払しょくするものなのです。これはかなりの大転換といえるでしょう。

老後の自身の親をそれぞれの世帯で扶養する「私的扶養」から、公的年金により国全体で扶養する「社会的扶養」への流れは、1985年の基礎年金設立で一定の道筋を得ました。次に目指すのは「子育ての私的扶養から社会的扶養」への流れです。これは過去急速に悪化した財政状況の中で、新たな財源確保が難しくなかなか進展しなかった積み残しの重要テーマなのです。

「全世代型社会保障」の理念については多くの方が賛成だと思いますが、「その分社会保険料は値上げなのか?」と息巻く人たちも出てきそうです。

しかし今回は「単純な保険料の値上げではない」方式も提案されています。それが「子育て支援連帯基金」です。

「子育て支援連帯基金」とは

この方式は、2017年5月16日の自民党「人生100年時代の制度設計特命委員会」で初めて提案されたもので、今回急に出てきた施策ではありません。その理念は以下の通りです。

「年金保険、医療保険、介護保険という、主に人の生涯の高齢期の支出を(社会)保険の手段で賄っている制度が、自らの制度における持続可能性将来の給付水準を高めるために子育て支援連帯基金に拠出し、この基金がこども子育て制度を支える。」

今後の少子化対策に要する財源確保の在り方について より

具体的には、年金・医療・介護などの社会保険から少しずつ基金に拠出する方式です。

2017/6/24 東京新聞朝刊「子育て支援の財源、誰が負担?」より

この拠出金は子どもや孫・ひ孫世代のための仕送りというだけでなく、自分たちの将来の年金給付などを高める効果が期待できるものです。言い換えれば「明るい将来への投資」です。単なる「費用」ではありません。

でも「今の社会保障制度にそんな拠出をする余裕があるのか?」と思われるかもしれません。
しかし年金を例に取ると、積立金は現在約200兆円にも積み上がっており、これを活用して「国民皆奨学金制度」を創設するプランも提唱されています(会計の透明性に留意しつつ、返済は社会に出てから支払い能力に応じて行う「出世払い」方式)。
つまりは「社会保険の中で、お金をぐるぐる回していく」という発想です。

それでも、しっかりとした「財源」を確保して強固な「少子化対策」を実現するためには、負担する人たちに「理念」も含めて納得してもらう事が重要です。「理念や目的」をすっ飛ばして「我々の年金を使うのか?!」などと煽る報道に惑わされないよう、十分な注意が必要となります。

今回も安定財源が定まらずにまたもや「骨抜き」になるようであれば、もうこの国難には対処できないかも知れません。まさに今、歴史の転換点に立っている我々は今回しっかりと動向を注視していくべきではないでしょうか。

参考資料:
※資料1:2023/1/19 こども政策の強化に関する関係府省会議(第1回) 
内閣官房資料5
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_kyouka/dai1/siryou5.pdf

※資料2:2022/12/26 全世代型社会保障構築会議 報告書
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/zensedai_hosyo/pdf/20221216houkokusyo.pdf

※資料3:2022/12/13 内閣官房こども家庭庁設立準備室主催 関係団体・有識者との対話 今後の少子化対策に要する財源確保の在り方について 子育て支援連帯基金という考え方 ③財政・社会保障 資料https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_kankei_yushikisha/pdf/zaisei_syakai_siryou3.pdf

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