見出し画像

公的年金の世代間格差はあるのか?

「高齢者は少ない支払いで高額の年金を受け取っている」
「それに比べ若者の受取は少なくなる。これは不公平ではないか」
このような意見は、特に若者の間では根強いようです。

公的年金の「受取額」が「支払額」の何倍になるのか。
厚生労働省の厚生年金における試算※1では、1945年生まれだと「4.3倍」、1995年生まれは「2.3倍」となっており、数値上は「世代間格差」があるように見えます。

このような比較は金融商品でよく見かけます。しかし公的年金で金融商品的な比較をすることにあまり意味はありません。
なぜ意味がないのか?今回も「冷静に」この問題を一緒に紐解いていきましょう。

「4.3倍」と「2.3倍」の比較が「意味がない」とはどういうことでしょう。
それは「社会保障や社会資本全体」が徐々に充実していった歴史を見ずに、「公的年金だけ」に絞ってその倍率の比較をすれば格差があるのは当然で、「熱く議論するテーマではない」ということです。

もう少し具体的に紐解いていきましょう。まず、自身の親をそれぞれの世帯で扶養する「私的扶養」から、公的年金により国全体で扶養する「社会的扶養」へ、日本はいつごろ転換したのでしょうか?
それは、以下のグラフ※2 の「左側」のように、徐々に「私的扶養(青)」から「社会的扶養(オレンジ)」に転換していったのです。

キャプチャ

昭和30~40年代は年金保険料の負担が少なかった一方、親の「私的扶養」の負担が大きく、決して楽ではなかったのです。つまり、制度が整備される前と成熟した今を、単純に年金の「受取額÷支払額」の倍率で比較すると格差があるのは当然なのです。

さらに社会資本全体では、若者は高齢世代が頑張って築き上げてきたインフラを享受できているので、本来はそれらを加味した全体で比較すべきです。
つまり、「受取額÷支払額」の倍率は「公平性」を評価する指標としては「不適切」だという事です。

「今までのことはわかった。しかしグラフの「右側」を見ると将来の『扶養負担は高まる』とあり、やはり将来は安泰ではないのではないか?」という疑問が出てくるかも知れません。少子高齢化が進む中で確かに「安泰」ではありませんが、「将来」の事はこれから改善策を考えていくべきものです。

ではどのように改善すべきなのでしょうか。
まずは「勤労世代の拡大」です。60歳や65歳で引退せずに働ける限り自分のペースで働く人が増えて、年金を受け取らず逆に年金保険料を支払えば、年金財政の改善にプラスとなるでしょう。支えられる側から支える側へのシフトです。
さらに最も重要なのが、現役でバリバリ働く人たちの賃金をもっと上げることです。リーマンショック以降抑えられている現役世代の賃金が増加すれば、賃金と物価に連動している年金額も増加し、その結果全世代がハッピーになるのです。逆に賃金が上がらないと「全体のパイ」は大きくならず、「大きくないパイ」から年金を分け合うという限定されたものになってきます。「将来自分だけが高額な年金をもらう」などという抜け駆けは公的年金の仕組みではあり得ません。

このように年金制度は「少子高齢化」の危機を乗り越えるために、全世代協力して「雇用」を中心とした「改革・改善」を続けていくことが重要なのです。

公的年金制度の理念は「世代間の助け合い」です。「世代間の対立」ではありません。
全世代で協力をして取り組むべき課題が山積している中、もはや百害あって一利なしの「年金の世代間格差」を煽ったり、たきつけたりしている場合ではないと思います。

我々は年金の
「現状(報道されているほど悲惨な状態ではなく、老後のベースとして頼りになる制度)」
 「課題(少子高齢化が進むと安泰ではない)」
 「対応策(付加価値生産性を上げ賃金を上昇させる、高齢者や女性を含め多くの人が労働参加する、長く働き年金を遅く受け取る、など)」
を共通認識としてしっかりおさえることが大切だと思います。

まとめ
・「世代間格差」は一部を切り出して比較すると「ある」が、熱く議論するテーマではない
・今後は「少子高齢化」の影響を抑えるべく、全世代で協力して雇用・年金制度の改革・改善に取り組まなければならない(不満を言っているだけでは何も解決しない)

※1
厚生労働省 平成26年財政検証結果レポート「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し」(詳細版)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/report2014_section5.pdf P406
※2
2012年3月23日 厚生労働省 第4回社会保障の教育推進に関する検討会資料
社会保障の正確な理解についての1つのケーススタディ ~社会保障制度の“世代間格差”に関する論点~
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000026q7i-att/2r98520000026qbu.pdf
p15
※3
同上 p24


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?