夏屋

毎年、梅雨が明ける頃から、ススキが出てくるまで、夏の間にだけ営業をしている店がある。
その店の名前は「夏屋」。
夏屋は夏を過ごす全ての人に、それぞれの夏を販売している。

夏屋は若い店長が一人で切り盛りしている。
噂によると、なのだが、店長は世界中からたくさんの夏を集めてお店の棚に保管しているのだそうだ。
　
あるときは遠い国で夏を買い付けし、あるときは湖に浮かぶ夏を優しくすくいとり、あるときには時間をかけて自分でこねて見たりもする。

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夏屋の店長について、詳しいことは誰も知らない。
ただ、夏生まれだということと、かき氷が大好物ということだけは知られている。

夏屋の店長は、夏選びの天才でもある。その夏の集め方もさることながら、個人個人にぴったりと合う夏を選んでささやかに渡すのである。

最近夏屋で扱われた夏は、例えばこんな夏たちだ。

・久しぶりに家族みんなで流し素麺をする夏
・受験勉強を頑張りながら、休憩にスイカを食べる夏
・生まれて初めての海にワクワクする夏
・片思いの相手を花火に誘う夏

そのひと一人にとっての、その年過ごすべき夏を、たくさんの夏から選び出すのである。

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そうしてみんなの夏を見届けて、爽やかな風とともにススキが出てきた頃、夏屋はそっと店仕舞いをする。

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あなたの夏は、どんな夏だろう。